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まずは基礎から。
ブラックホークのメーカーであるスターム・ルガーは U.S.A. の企業。
独逸の銘銃の一つである「ルガーP08」(正式名「パラベラム・ピストーレ」)のルガーとは、まったくの別物。
P08 のほうは、設計者であるゲオルグ・ルーゲー(英語読みでジョージ・ルガー)のお名前。
「Sturm
Ruger」と「Georg
Luger」なので、書籍などの記載ではまちがいが起こりにくいものの、会話のやりとりだけだとアメリカ人でも勘違いしている人が少なくないらしい。
試験に出るかどうかは知らんけど、重要な基礎だよワトソンくん。
MkI(マーク1)と呼ばれる競技用自動拳銃でメジャーになった会社。
この MkI は低コスト高性能をウリに大成功した銃。パーツの製造にプレスや打ち出しを多用することで、高級銃ではできない低価格を実現。にも関わらず命中率も稼いでいる。これがなかったら、後発であるスターム・ルガーは米国の銃器市場に割り込めなかったと思われ。
ちなみに、この MkI のシルエットが P08 に似ていることも、ゲオルグ・ルーゲーとの混同の一因となった。
内部構造は P08 とは似ても似つかず、実は南部式を参考にしている。その南部はモーゼルC96 を参考にしているため、ルーツとしては P08 ではなく、C96 の遠縁と言える。
ついでに言うと、南部式も、知識のない層から「P08 の粗悪コピー」と悪態をつかれていた。
で、そんなコスパ最強の競技銃で成功した会社が次に世に送り出したのが、銘銃コルトSAA(シングル・アクション・アーミー)のコピー銃。
廉価品の次はコピーかよっ!
と怒るなかれ。
設計のパテントが切れた銘銃を後発組がコピーするのは米国市場の普通。今だとガバメントの合法コピーが山ほどある。あのS&Wでさえガバのコピーを出してるくらいだし。
日本でも大人気のSAAは本場 U.S.A. でも当然の&安定の人気ぶり。だが 19世紀の銃のため気軽に撃って遊べない。新品もあるが、そこは一流処のコルト。お値段も、それはまあそれなりに。
そこで新品でなおかつお値頃で手に入るコピー銃の需要があったワケ。
スターム・ルガーより前にも多種のSAAコピーがあるのだから、スターム・ルガーを責めるのは筋違い。
ただ。
スターム・ルガーは他社とは違う。単にコピーに留まらなかった。
それがブラックホーク。
一番の特徴は、SAAの弾より強力な .357マグナムや .30カービンを採用したこと。
SAAで使う .45ロング・コルトは、しょせん 19世紀の、黒色火薬時代に開発された規格。第二次大戦も終わった時代の人々には物足りない。
そこで、もっと威力のある“SAA”を作ったろかい、と考えた(んだろうね)。
実際、世間は「マグナムを撃てるSAA」という認識で注目したそうな。SAAと違いリア・サイトが調整式なので、ハンティングにも使い勝手が良かったという話。
調子こいて、さらに強力な「スーパー・ブラックホーク」も出してきた。そう。.44マグナムのヤツ。もちろんこれも大人気だった(と思う)。
スターム・ルガーは他にキット・ガン(子供用銃)として、ブラックホークとほぼ同じ構造をした .22口径のシングル・シックスも出している。いや、正確にはシングル・シックスのほうが先で、ブラックホークがこれに続いた形。
と、ここまでは良かった。
だが世の中、そう甘くはない。
スターム・ルガーに試練が訪れるのであった。
とあるウエスタン趣味の御仁がブラックホーク(シングル・シックスだったかもしれん)に実弾を装填、腰に吊ったガンベルトに挿し、そのまま乗馬して西部劇のカウボーイを気取ってたと思いねえ。
その御仁がうっかり落馬。その落下の衝撃が、銃のハンマーに伝わり暴発。御仁は足に大怪我をした。
そして、製造者責任に厳しい米国の司法なので、スターム・ルガーは多額の賠償金を支払うハメに(例のドライブスルーの熱々コーヒーこぼして火傷事件と同じ構図)。
補足すると。
そもそもSAAが古い古い設計なので、暴発防止の機構を持っていなかったという残念な事実がある。
六連発のシリンダーに入った弾のうち必ず一つは当然のことハンマーが叩く位置にあり、しかもハンマーをロックする構造が無いという。ぶっちゃけ、ハンマーを戻した状態だとハンマー・ノーズは雷管に触れている。
いちおう安全状態としてハンマーを軽く少しだけ後退させるレスト・ポジションというのがあるにはあるが、現行のリボルバー銃のような安全機構とは程遠い。19世紀当時の米軍が兵士たちにどう指導していたかは知らないが、銃器に詳しい人々の間ではSAAには五発しか装填しないという“常識”もあったとか。
かつて月刊『Gun』誌のリポーターだったイチロー・ナガタ氏の恩師と言えるテッド・イマイ氏も少年時代、この危険な構造を知らずにSAA(のコピーだったかも)を西部劇よろしく指でクルクル回していたところ落として暴発、死にかけた経験があると、和智香氏のリポートで紹介されていたと記憶している。
で、ブラックホークおよびシングル・シックスはSAAのコピーだから、その欠点もそのまま持ち合わせていたという。
これを教訓に改良がなされることに。
具体的には、ハンマー・ノーズを廃止。ノーズの無いハンマーとファイアリング・ピンとで別にし、その間にトランスファー・バーを入れる。
つまり。
ハンマーが叩くのはトランスファー・バーで、その衝撃がバーに隣接したファイアリング・ピンに伝わり、ピンが薬莢の尻を打つ。
という間接的プロセスに変更。トランスファー・バーが定位置にいないときは、万一ハンマーが落ちてもピンには届かず空を切るばかり、というわけ(たしかパイソンでも採用されている構造だし、復活したコンバット・マグナムもこの構造になったはず)。
これで安全に六発フル装填できるように。
ニューモデル・スーパー・ブラックホークの誕生である。
同様に、ブラックホークもシングル・シックスもニューモデルとなった。
しかし、スターム・ルガーは、これだけでは安心できなかったらしく。
当時の製品すべてに、あるささやかな仕掛けを施した。
スターム・ルガー製の実銃写真や、その外見を正確に再現したトイガンで、銃身を見ると、何やら細かな刻印がズラリと並んでいる。
普通なら、銃身に刻まれるのはメーカー名や工場地名、口径、あるいはモデル名くらいなもの。
ところがスターム・ルガーの銃は、とにかく銃身の刻印がゴチャゴチャしているのだ。書き込みと言っていいレベル。
それもそのはずで実は、ここに刻まれているのはロゴやナンバーなどではなく文面なのである。
曰く「この銃を使う前に取説をきちんと読め」と。
もちろん取説には正しい使用方法が記載されているが、それだけでは馬鹿が読まないかもしれないので、銃本体にまで注意書きをしたということ。
ここまでしないと万が一にも事故が起きたときの訴訟が怖かったのだろう、当時のスターム・ルガーは。徹底的な免責対策だね。さぞかし、あの事故がトラウマだったんだろうねぇ。
ブラックホークのもう一つの特徴が、ローディング・ゲート。
SAAはシリンダーがスイング・アウトしないし、中折れでもないので、弾を一つひとつチマチマと装填して、撃った後は空薬莢を一つひとつチマチマと取り出す。そのための穴がローディング・ゲート。
この穴にシリンダーの位置を一発ごとに合わせるため、シリンダーが空回りする必要がある。
SAAでは、ハンマーをハーフ・コックすることでシリンダーをフリーにできるのだが。
ブラックホークはローディング・ゲートの蓋を開くだけで、シリンダーがフリーになるという便利な構造を採用した。ここは利便性の面でSAAに圧倒的差を付けた部分。
で、モデルガンに話を戻すと。
このローディング・ゲートの構造を採用したのがウエスタンアームズの金属モデルガン。
ブラックホークは他にコクサイとマルシンとハドソンも金属モデルガン化したが、このゲート構造はスルーしていた。コストダウン目的かもしれないし、モデルガン故の耐久性を意識したのかもしれない。
そこが、ウエスタンアームズ製のブラックホークが人気だった、そして今でもオクで取り合いになる理由。
ああ、やっぱり買っときゃよかったかー当時。
でも、ブラックホーク自体が、そんなに好きじゃないんだよなー。
同じスターム・ルガーなら、レッドホークがいい。なんであれをモデルガンにしてくれないんだよ(ガスガンは出てるんだけどね)。
ちなみに、.44マグナムを撃てるまともな量産リボルバーは、スーパー・ブラックホークとレッドホークの他には、コルトのアナコンダくらいなもの。
『ダーティハリー』で有名になったS&Wの M29 は、.44マグナムに対しては脆弱。メーカーも、普段は .44スペシャルを使うよう推奨していたほど。
なお、デザートイーグルは興味ないので知らん。とは言え、オートでリボルバー用の弾を撃つこと自体に無理があると思う。デザートイーグルなら素直に .50AE 使えばええやろ。
さらについで話に。
スーパー・ブラックホークを越えるSAAコピーとして。
.454カスールを使うフリーダム・アームスの M83 がある。これは耐久性を考えてシリンダーを肉厚にした結果、五連発。
それに負けたくないのか、S&Wは近年になって M500 という銃キチ向けのハンドキャノンを出しやがった。ホント、今のS&Wは、大口径ライフル弾のウェザビー同様に、知性というものが感じられない。
でかきゃいいってもんじゃないんだよ。
(でも、もしも M500 の金属モデルガンが出たりしたら、お値段によっては、きっと買うんだろーなーオイラ)
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マグナム弾を撃つオートというと、もちろん何種類もある。弾薬メーカーが「こればマグナムだ」と言えばマグナム弾になるわけだから(笑)。
そんな中、個人的に代表的なマグナム・オートというと三つ挙げたい。
※ オートマグ MODEL 180(.44オートマグピストル)
※ ウィルディ・ピストル(.45ウィンチェスター・マグナム)
※ グリズリー(.45ウィンチェスター・マグナム)
あえて、デザートイーグルは入れない。
あれの最強弾は「.50アクション・エクスプレス」であり、「マグナム」を名乗っていないから。
たぶん、「マグナム銃」呼ばわりされたくないんだろーなー、と♪
マグナム弾用のオートとして、パイオニアにあたるオートマグ。
.44口径の 180 の他に、.357口径の MODEL 160 もあったが、メインは 180 。
鉄でなくステンレス製のみのシルバー色と、今で言うレトロフューチャーなシルエットで銃器マニアのハートを鷲掴みにしたし、今でも鷲掴みし続けている。と思う。
ジャムが多かったため「オートジャム」などと悪口叩かれたのも堪えたのか、開発・発売したオートマグ社はソッコー倒産。TDE社が後を継ぐも失敗。廉価な .22口径競技銃やデリンジャーをメインにしていたハイ・スタンダード社が受け継ぐも、またも失敗。さらに引き継いだAMT社を最後に生産終了という、商業的には不遇な製品。
ちなみにモデルガンでは、MGCが「オートマグ」、コクサイが「ハイ・スタンダード」、マルシンが「TDE」刻印になっていた。MGCのはABS樹脂製だったせいでか黒いボディなのが違和感バリバリだった(爆)。
たぶんレギュラー生産での最終型は、映画『SUDDEN IMPACT(ダーティハリー4)』に併せてAMTがクリント・イーストウッド氏に贈呈した長銃身カスタムの「CLINT-1」(ただし、劇中でハリー・キャラハン刑事が握っていたのは撮影プロップの「CLINT-2」)。
この CLINT-1 をマルシンが「TDE」の金型を利用してモデルガン化し、それを最後にこの金型はガスガン用に改修されたらしい(涙)。
「CLINT-1」の後は後継機であるオートマグII へと生産が移行。以後、III 、IV 、V と続くが、これらは“初号機”ほどの面白みがないのでスルーさせていただく。
「オートジャム」の汚名については、後で補足する。
ウィルディは、実は個人的には重視していない。
専門誌の記事を読んだだけだが、あの前評判倒れだったブレンテン並みに微妙な製品だと感じているから。
そもそも、量産品なのに彫刻があるだけでも胡散臭い(笑)。
いや、断じて粗悪品とかではないんだどね。まあ、見た目かな。(;^_^A
ステンレス製だったり、銃身の上に放熱用の穴空きリブがあったり、機構が回転式ボルトだったりと、先行したオートマグをかなり意識していたと思われる。もっとも、ボルトの回転にガス圧を利用していた点は、反動を利用したオートマグとの相違点になるが。
ぶっちゃけ、オートマグが商売的に失敗したのに、なんでこれが生き残ったのかは理解できないし不満。
グリズリーは、実は目新しい点が、ほとんどない。
理由は、パテントの切れたガバメントを丸写ししたコピー銃だから。乱暴に言ってしまうと、.45WM口径のガバメントを作ったに過ぎない。
LAR社は“マグナム・オート先輩”である二つの会社みたくゼロからの開発という冒険をしなかった。構造に信頼あるガバをマグナム用に強化するという安全策で出た。何せ、八割のパーツがガバと共用できるということで。
この無難路線が功を奏したのか、グリズリーは安定した性能を発揮していたそうな。ガバとパーツが共用できるということは、つまり市場に山ほどあるガバ用カスタム・パーツが使えるということでもあり、マニア心をくすぐったであろうことは想像に難くない。
さて、↑の三つを比較する際、かつての月刊『Gun』誌にて、ターク・タカノ氏による興味深い比較記事があった。
詳細は省略するが、総評では予想どおりグリズリーが一番の評価を得た。決め手は、やはりガバメントをコピーしたが故の作動の確実さと操作性。
メカに凝りすぎたウィルディが、もっとも低評価。これは納得いく。
ターク氏も「意外」と言っておられたのが、オートマグの健闘ぶり。比較テストでは一度もジャムしなかったそうで。
ちゃんとメンテすればジャムらないほど、オートマグの出来は良い。と言っておられたと思う。
それと、もう一つターク氏のご意見として。
「オートマグは材質の選択に失敗した」
というのがあった。ターク氏によるとオートマグに使われているステンレス綱は粘りが強く、ボルト回転式という複雑な動作を邪魔しかねないそうな。
ご存じのとおり、ステンレス鋼は鉄とクロムの合金なので、その比率で性質が変わってくる。よく知られるものに、台所用品などで目にする「18-8(SUS304)」や、高級腕時計に使われたりする「SUS316L」などがある。
配合比による性質の違いを理由に、あのコルトが長らく自社製銃のステンレス化に踏み切らなかったことも、よく知られている。
ターク氏は、このステンレス選びをまちがえなければオートマグは「オートジャム」にはならなかったはずだ、と言っておられた。
今からでも、どっかやらないかな。