折りたたむ
まずはヘソ曲がりな観点からの印象を。
庵野監督とお互いに意識しているであろう押井守監督による『機動警察パトレイバー』第一期OVA第四話『4億5千万年の罠』を物凄ーく滅茶苦茶デカすぎる規模に拡大膨張させたものだと直観しました。まー、あれそのものが『ゴジラ』第一作へのオマージュでしたからねぇ。
庵野監督が意図しておられたかどうか、自覚しておられたかどうかは知りませんがね(笑)。
ここからは真面目に。
3.11 が起こらなかったら、この映画は誕生しなかったでしょう。
大胆に要約するなら「ゴジラと名付けられた未曾有の大災害に、もがき苦しみながらも立ち向かう日本政府の姿」に尽きます。それ以外は何もありません。北米版にあるような家族愛とかもありませんし、昭和にあったようなゴジラの足下で展開される人間側の無関係な小芝居とかもなく。軸はゴジラが歩く一本道のみというシンプルそのもの。
かつて、昭和29年の『ゴジラ』を、アメリカ人記者の取材体験談という体裁で再編集した『Godzilla, King of the Monsters!』(『怪獣王ゴジラ』)みたいなことを、『シン』を元にやっても面白いかもしれませんね。「大災害検証ルポ」的な番組っぽく。
で、きちんと怪獣映画として観ると。
おそらく多くのかたがたが抱いたであろう感想と同じく。
自分も、この映画を「ネルフとエヴァの出てこない、戦自のみで実行されたヤシマ作戦」だと感じました。
庵野作品って、基本的に当該組織の人しか出てこないんですよね。『トップ』では帝国軍人と、その候補生(沖女の生徒たちね)のみ。『エヴァ』では特務機関ネルフ(新第三東京市全体がネルフの施設だからね)と上位組織ゼーレ、および戦略自衛隊。庵野作品にて一般民間人キャラは名前も台詞も貰えないのですよ(笑)。まさに監督がお好きな昭和の怪獣モノ特撮作品の傾向と一致しますね。
『シン』では、それが特に顕著に出ており、台詞と名前のある登場人物のほぼ全員が公職(臨時も含めて)です。民間人でよく喋ってるのは劇中のニュース番組に出ていたアナウンサーやリポーターくらいなものかと。日本政府の姿を描くのですから、これが正解だと思います。下手に民間人を出すと長ったらしくなる。人捜しに協力したあのフリー記者や差し入れしてくれるおばちゃん以外では、政府への抗議デモをやってた群衆あたりが皮肉も入ってて、いい落とし処ですね。
皮肉と言えば。最初に巨大生物が上陸したとき、逃げもせず熱心にスマホ撮影する群衆。あれも実際にありそうで滑稽でした(と言いますかスマホこそなかった頃ですが、雲仙普賢岳の大火砕流では取材陣の姿勢がまさにそうだった)。
会議会議会議で、ちっとも方針が決まらず対策が進まず初動に遅れを取り。
で、モタモタしてるうちに事態を悪化させる(いや、ゴジラ相手では迅速に対応したところで結果は同じでしたが、たぶん……)。
それが途中の、あの出来事を転機に日本政府のフットワークが軽くなったのは皮肉たっぷりですね。笑いましたもん。……ああ、つまり船頭は大勢も要らんってことですよ♪
序盤、巨大生物出現を受け、内閣に呼び出されて意見(と言うか無意見)を述べた三人の権威ある生物学者も皮肉的描写ですね。福島原発事故のあとになって急に声高に原発危険論を謳いだした科学者たちへのアンチテーゼが含まれている気がしてなりませんから。
三人の生物学者は謎の巨大生物に関する意見を政府から求められた。それへの返答が「初めて見る物だから判らない」という当然の内容。だが内閣は彼らに、未知の脅威に対して専門家としての推論を求めているのであり、学者たちは自分の経験と知識をもって不測の事態を予測、前もっての予防策を提言する責務がある。にも関わらず常識的返答で済ます。つまり科学者として無責任であり無力だった。
対して、巨大生物の対策チームとして集められた「はみ出し者」たちの中にいる出世コースから外れた科学者たちは、あらゆる可能性を考えて対応策を捻り出す。
という対比がなされています。科学者とは斯くあるべきという庵野さんの気持ちなのでしょうか。
最初、ただただ周囲に言われるままに動いていただけの総理が徐々に責任者の顔になっていった。
仕事の話よりラーメンが伸びてしまうのを気にしていた総理代理も、飄々としながら最後には、ちゃんと決めてくれた。
どちらも好印象でした。
最前線で作戦に当たった自衛隊員たちは、もちろんのこと。
「礼は要りません。仕事ですから」の統合幕僚長も格好良すぎ。
政治家と言い自衛官と言い科学者と言い。
現実に、あんな人たちがいてくれれば日本もまだまだ大丈夫なんですが……ねぇ。
U.S.A. は日本の友人と米帝とが半々。
欧州はカードの切りかたさえまちがえなければ味方になる。
中露は、どう転んでも日本の友人にはなりえない。
庵野さんの頭の中の世界地図が垣間見えました♪
ヤシオリ作戦は燃えますね。さすがです。
特にゴジラの頭を物理的にブン殴るあれには感動しましたよ! 過去の例を見ても、対戦怪獣(含・ロボット怪獣)以外でゴジラを物理的にどついたのは初代ウルトラマンだけです。ただし、そのときのゴジラさんは「ジラース」という匿名出演でしたけどねー。
なお、セガのドリキャス用ゲーム『ゴジラ・ジェネレーションズ』で街を破壊する際、あの状況に似たようになると、ちゃんと被ダメが生じてHP削られます(笑)。
庵野作品らしく、随所に謎の伏線っぽいものが敷き詰められており、様々な解釈ができるよう仕掛けられていますね。
つまり、正解はない。観た人それぞれで好き勝手にやってくれ。
だからこその
「私は好きにした」なのですよ(笑)。
いちおう解釈というか、あれの後を予想してみましょ。
ヤシオリ作戦の「ヤシオリ」とは、須佐之男命の策略で八岐大蛇に飲ませた「八塩折之酒」からきているそうで。つまりヤシオリ作戦とは「一気! 一気!」ってコト(爆)。
とするとゴジラは八岐大蛇ということになります。ならば、最後のシーン、あのアップになった尻尾の解釈が見えてきませんか?
須佐之男命によって退治された八岐大蛇の尻尾から出てきた物は何だったでしょう? そうです。草薙剣(天叢雲剣)です。とすると、ゴジラの尻尾からワラワラと生えかかっているものも……剣? いやいや、さすがに英雄を待つ伝説のZソードが出てくるはずはありません。たぶん尻尾にあるのは「剣」が象徴する何かでしょうね。
古事記の解釈をひもときますと、八岐大蛇は氾濫する大河、それを退治することは治水、そして草薙剣は製鉄技術だそうです。つまり、川の大水になすすべのなかった人々が異邦人から知恵を得て治水、さらに鉄器を作るまでになる発展の過程を表している、と。
そうすると、ゴジラの尻尾から出てくるのは、それまで人類の知らなかった新たな技術のヒント? それも、どっちかと言うと物騒で危険な技術? ぶっちゃけ兵器になる代物でしょ。
いやー、ここまで考えて、けっきょくは巷の意見に多いアレに思えてきましたよ。ゴジラの尻尾には博士の遺伝子を取り込んだ人型が生えかけてて、それを取り出して培養、巨神兵か人造人間エヴァンゲリオンを作るんじゃね? ってヤツ(笑)。
過去の例を見ても、特に「vsシリーズ」では、ゴジラの細胞を元にした敵怪獣が何度か誕生しましたからね。ありえない展開ではない。
いや、そうなったらモロ『4億5千万年の罠』だわー。