相続 〜土地家屋〜


 
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 故人の自宅が持ち家であれば、その土地家屋を相続人が相続することとなり、相続登記の手続き、つまり名義の変更が必要となります。
 これをやっておかないと、将来、家を売ろうとしたときや、再び相続が発生したときに、厄介なことになります。
 なので、義務ではなくても、済ませておいたほうが良い性質のものです。
 
 
 流れとしては、
 
 被相続人が所有していた不動産の確認
  ↓
 不動産の正確な情報の入手
  ↓
 不動産の課税評価額の確認
  ↓
 相続登記にかかる登録免許税の計算
  ↓
 登記申請書の作成
  ↓
 添付書類の用意
  ↓
 登録免許税の用意
  ↓
 相続登記の申請
  ↓
 登記識別情報などの受け取り
 
 といった感じです。
 
 
 詳細は以下にて順番に。
 
 
 


(1) 不動産の確認

 毎年、届けられる固定資産税の納税通知書を見るのが一番です。故人の名義となっている土地家屋が一目瞭然ですから。
 ここに記されている所在地と地番、家屋番号が大切。
 

(2) 不動産の正確な情報の入手

 納税通知書から得た不動産の所在地、地番、家屋番号を元に、不動産がある場所の法務局(登記所)で登記事項証明書を請求します。
 請求書と記入例は法務局のサイトに載っています。
 
 注意することは、不動産の数だけ請求しなくてはならない点です。
 自宅だけだからと一件では済みません。土地と建物は別々なので二件。場合によっては一つと思われた土地が二つだったりします。
 とにかく納税通知書に載っている不動産の数が請求件数となるので、手数料もその数だけ倍掛けします。
 当然、発行される登記事項証明書も一通ではなく、不動産の数だけ出てきます。
 
 手数料は、必要金額の収入印紙を請求書に貼付することで支払いとなります。登記所に販売窓口があるので、そこで購入すればOK。
 なお、登記所ごとに微妙に対応が違うらしく、最初っから印紙を貼ってしまわないほうがいいかもしれません。
 
 オンラインの支払い手段を持っている人なら、ネット経由の申請が便利だと思います。
 手数料も割安ですし。
 
 判らないことがあれば、法務局に訊くのが一番です。
 各法務局、各支局ごとに問い合わせ用の電話番号が公開されています。
 
 登記事項証明書を読み解くコツを一つだけ。
 証明書の文中にあるアンダーラインは、その項目が抹消済みであることを意味するので、現状ではなく単なる過去の記録ということです(下の枠に、日付や原因とともに「抹消」の文言が入る)。
 ですから、不動産の現状(土地の種類、所有者、抵当権者などなど)を知るには、アンダーラインの無い部分だけを読めばいいワケ。
 なお、「昭和63年法務省令第37号……中略……の規定により移記」という枠が必ず入りますが、これは手書き書式から電算書式への変更を意味しているので気にせんでよろし。
 ちなみに、手書き書類の写しが「登記簿謄本」で、電算書類からプリントアウトされたものが「登記事項証明書」なのだそうな。
 
 ここで、もしも自宅が抵当に入ったままだと判ったら、即座に専門家に相談しましょう。
 もはや素人での相続手続きは無理です。
(ローンを完済していても、登記をサボってしまったというケースがありうる)
 

(3) 不動産の固定資産評価額の確認

 実は、(1) の固定資産税納税通知書で判るんですけどね。記されている評価額が、それ。
 ですが、相続登記の手続きに基本、添付する必要があるので、固定資産評価証明書を取っておくべきです。
 
 不動産のある市区町村の役所・役場に請求します。その際、申請者の身分証明書だけでなく、所有者(被相続人)の住民票の除票(本籍地記載)も用意しておいたほうがいいです。
 窓口に備え付けの申請書(自治体によってはダウンロードもできる)で「全物件」として請求すれば、その地域に所有する不動産すべての情報が出てきます。
 同じ年度であれば、固定資産税納税通知書と同じ評価額が記載されているはずです。
 
 なお、固定資産評価証明書は相続登記の手続きをするのと同じ年度のものでなければなりません。別年度のものは無効です。
 要するに、固定資産評価証明書を取ってから相続登記を申請するまでに三月と四月を絶対に跨がないこと!
 

(4) 登録免許税の計算

 相続登記には登録免許税の支払いが必要となります。
 これの額ですが、申請者が自分で算出しなくてはなりません。で、計算違いしてたらダメ出しされます。
 だったら登記所が計算してくれてもいいようなものですが、決まりだから仕方ありません。
 
 計算方法は簡単です。
 (3) で調べた不動産それぞれの固定資産評価額をすべて、一円単位まできちんと合計します。
 その総合計金額の千円未満、つまり下三桁を切り捨てます。末尾が必ず「000」となるわけです。
 末尾「000」となった金額の 0.4%、つまり千分の四を算出します。
 算出した 0.4%の金額の百円未満、つまり下二桁を切り捨てます。末尾が「00」となるわけです。
 これで登録免許税の金額が出ます。
 
 例えば評価額が一千万円なら登録免許税は四万円となります。
 

(5) 登記申請書の作成

 これ、自作するんですよね。
 雛形が公開されているにはいますが、個々の事例に合わせて多少のアレンジが必要。
 
 とりあえず、ザックリした作例を載せてみます。
 
 死去した夫の所有する自宅を、分割せずにすべて妻が相続、手続きは子が代理で行う。
 という設定です。
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
登記申請書
 
 
  登記の目的  所有権移転
  原   因  令和3年2月1日 相続
  相 続 人  (被相続人 A野B造)
         X県Y市Z町一丁目2番地の3
           A野C代
 
  添付情報   登記原因証明情報 住所証明情報 代理権限証書
  
  令和3年4月5日 申請   W法務局Y支局 御中
 
  代 理 人  X県Y市Z町一丁目2番地の3
           A野F松 
         連絡先の電話番号 000-000-0000
 
  課税価格   金22,222,000円
 
  登録免許税  金88,800円
 
  不動産の表示
 
   不動産番号   1111111111111
   所   在   X県Y市Z町一丁目
   地   番   2番3
   地   目   宅地
   地   積   222・22平方メートル
 
   不動産番号   1111111111122
   所   在   X県Y市Z町一丁目2番地の3
   家 屋 番 号   2番3
   種   類   居宅
   構   造   木造瓦葺2階建
   床 面 積   1階 66・66平方メートル
           2階 44・44平方メートル
 
 

 
 
 白い無地の紙を縦にして作成します。
 サイズはA4が良いと思います。
 
 上側の余白は、法務局が使います。
 充分に空けておきましょう。
 
「原因」にある日付は、被相続人の死亡日です。
 
 相続人の住所氏名は住民票のとおりに正確に書きます。
 名前は直筆署名が良いと思います。
 相続人本人が手続きする場合は、ここに認め印を。
 
 添付情報については、下のほうで。
 
 代理人の住所氏名も住民票どおりに正確に。
 名前(これも直筆署名が良いかも)の後に認め印を。
 なお、相続人本人が手続きする場合は、もちろん代理人の欄は不要です。
 
 身内が代理で手続きするのは法的に問題ないそうです。ただし、念のため法務局に確認しておいたほうがいいと思います。
 それ以外で代理人になれるのは、資格を持った専門家だけです。無資格だと違法となりますので、ご注意を。
 
 課税価格とは固定資産評価額のこと。
 
 不動産の表示は、登記事項証明書に記載されているそのままを一字一句違えず馬鹿正直に書き写します。完璧にコピペです。
 少しでも違っているとダメ出し来ます。
 例えば、所在と住所は微妙に違います。慣れで書いてしまうと失敗します。
 また、地番や家屋番号も住所の番地とは違います(同じ場合もあるが、それは、たまたまのこと)。ここは絶対に住所の番地を書かないよう、意識してコピペしてください。
「1−2−3」と「1の2の3」と「1ノ2ノ3」は、すべて違います。
 アラビア数字と漢数字も別物扱いです。とにかく気をつけましょう。
 なお、不動産番号だけでも通るそうですが、私は念のため全部記入しました。
 
 作った登記申請書の裏に、同じサイズの白紙を重ねて左側を綴じます。
 綴じた合わせ目を開いて、署名捺印に使った認め印で契印(割り印みたいなもの)をします。
 この白紙は収入印紙を貼る台紙となります。
 
 きちんとした雛形と記載例が法務局のサイトにあります。
 ずっと下のほう、19) 以降です。
 遺産分割協議書や委任状の例文もあって、参考になります。
 

(6) 添付書類

 登記原因証明情報とは、被相続人の出生から死亡までの連続した戸除籍謄本と、法定相続人全員の戸籍謄本。
 住所証明情報は、被相続人の住民票の除票と、法定相続人全員の住民票。
 もちろん、この二件は法定相続情報一覧図の写し(住所を記載したもの)一通だけでもOKです。これを提出するなら、戸籍も住民票も要りません。
 
 作例の設定は法定相続分に従わない相続なので、遺産分割協議書と法定相続人全員の印鑑証明書も添付します。
 
 代理権限証書とは、簡単に言えば委任状のことです。
 
 明記されてはいませんが、固定資産評価証明書の添付も慣習になっているそうで、求められます。
 

(7) 登録免許税の用意

 基本的に収入印紙で支払います。
 法務局(登記所)に販売窓口があるので、そこで購入するのが一番です。
 金額に違いがあると、たとえ払いすぎでも書類の不備となり、修正手続きが必要になります。税額の計算は念には念を。
 
 印紙を貼るときは、台紙の上側から高額の順に貼っていくそうです。
 
 いちおう、印紙で支払えるのは「三万円以下」となっています。
 が、実際には三万円を越えても印紙でいいようです。我が家の場合も印紙で通りました。
 念のため、手続き前に確認しておいたほうが、いいと思います。
 

(8) 相続登記の申請

 ここまで揃えた書類すべてを、不動産を所轄する法務局(登記所)に提出します。
 あとは結果待ち。
 
 法務局では、申請について相談窓口を設けています。
 書類が揃ったところで、予約して相談することを強くお勧めします。
 ただコロナ禍の今は、電話相談の形を取っています。これも予約が必要ですが、いろいろ教えてくれますので、利用しない手はありません。
 
 私の場合、電話相談を経てから書類持参で法務局へ手続きに行ったのですが、運良く担当者さんに時間があって、提出直前に書類の確認をしてもらえました。
 
 郵送での申請もできますが、慣れていない人にお勧めできるものではないと思います。
 

(9) 登記識別情報などの受け取り

 登記識別情報とは、俗に言う権利書のことです。
 
 書類に不備がない限り、提出時に教えられた予定日以降に窓口で受け取れます。
 この際、申請時に受け取った控え書類と、申請書に捺した認め印と、身分証明書が必要です。
 
 受け取りに行ったついでに、あらためて登記事項証明書を取ります。
 これは、名義の変更が正しくできたことを確認するためです(万が一、まちがっている場合は専門家に相談かな)。
 登記識別情報と一緒に大切に保管しておきましょう。
 
 郵送でも受け取れます。
 当然、切手を貼り宛先を記した封筒の提出が申請時に必須です。
 

(10) Tips めいたもの

 収入印紙を台紙に貼る際。
 平穏なときなら、役所や銀行などなどの窓口付近にたいていあった、水を含ませたスポンジが、どこにもありません。これもコロナ禍のせいでしょうか。
 かと言ってコロナ禍の今、外出先で印紙の裏を舐めるのも賢明ではありません。
 なので、小さな容器に、ほんの少しだけ水を入れて持参することを提案します。弁当などに付いていた醤油差しみたいなので、いいのです。
 それで印紙の裏を軽く濡らす。
 糊を持参する方法もありますが、印紙や切手の裏糊って性能高いんですよね。別に糊を塗るより、単に水で濡らすほうが紙との貼り付き具合が良好♪
 



 
 
 素人の自分が相続登記をしてみての実感は。
 
 法務局は素人の相続登記に、たいへん協力的である、ということです。
 これは、相続登記に使う法定相続情報証明制度の利用でも感じたことです。
 決して上から目線での物言いなどありません。
 
 これは想像ですが。
 義務化されていない相続登記を何とか推し進めたい浸透させたい、という意志の顕れではないかと。
 法定相続情報証明制度も、相続登記をしやすくするために新設された制度ですし。この制度の利用料金が無料ということと併せても、想像は当たっているかと。
 
 ともかく、係の人が親切なのは、ありがたいことです。
 おかげさまで、何とかなりました。
 
 なお、支局ごとに空気感が違うかもしれません。
 運悪く冷たい人に当たったとしても、責任は負いかねますので、悪しからず。
 
 
 
 追記:
 2024年4月からは相続登記が義務化されます。
 これにより、法務局窓口での空気も変わるかもしれません。