その26・ラジオカセットのお話


 
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 思うところあって(いや、そんな大したことじゃないが)か、あるいは、とあるまぁるいおかたのお買い物に触発されてか、物置を探った。
 
 で。
 
 見つけた。
 
 National RQ-568。
 商品名「HiFi MAC」。
 
 だいたい20年ほど前のラジオカセット(注:「ラジカセ」はPIONEERによる造語ナリ。登録商標だったかもしれない。余談だが「レーザーディスク」もPIONEERの商標なのら)だ。
 
 当時、買ってもらってたワケではない。
 某ネット・オークションとかで入手したワケでもない。
 二年半ほど前に拾った粗大ゴミだ。
 しかも雨の日だった時。
 
 あんまり汚い(雨水と泥まみれだった)ので、さすがの妖之佑も拾うのをためらったのだが、それでもめったにお目にかかれない機種なので、ダメモトで拾っておいた。
 で、掃除する前に、水気を完全に切ろうと放置。そのまんま忘れてたりするのだ。
 
 おかげで雨に打たれたのは完全に乾ききり(二年以上だから、あたりまえか♪)、カラカラになった元泥がこびりついてるのみ。
 それを楊枝でチマチマと削り落とし、多少汚れもふき取り、手持ちのガラクタの中から取り出した適当な電源コードをつなぎ、恐る恐るラジオ部分のスイッチを入れる。
 
 鳴ったよ。
 それも、意外といい音で。
 さすがは「HiFi」を名乗るだけある。
 リアル・タイムでは聴いたことがなかった機種なので、ある意味感動。
 多少の接触不良とかはあるものの、ラジオとしての実用性は生き残っていた。嬉しいことにダイヤル・ライトも健在♪
 
 さすがにこっちはあかんやろ、と思いつつ、物は試しと「PLAY」ボタンを押し込んでみる。
 回ったよ、モーター。
 信じられへんっ。
 もっとも、回転速度は狂ってると思うが。
 しかも、ヘッドもピンチ・ローラーも泥にやられているので、とうてい使い物にはなるまいが。
 それでも、回転するというのが、びっくら。
 
 よく生きてたねー。
 拾っておいて、よかったー。
 
 
 
 今でこそ、思いもよらないが。
 この「HiFi MAC」の頃は、モノーラルな高級ラジオカセットがステータスだったのだ。
 
 正確なデータなど無論持ってはいないが。
 たぶん、SONYのCF-1980「studio 1980」あたりがブームの火付け役だったかと思う。
 16cm&5cmの2ウェイ・スピーカ、高音・低音それぞれ独立のトーン・コントロール、マイク・ミキシング機能、各ボリュームはスライド式、高硬度パーマロイ・ヘッド&クローム・ポジション(後に「TYPE II」と言われたテープのポジション)、受信部のセラミック・フィルターとバッファー・アンプ、ITL&OTL回路(入出力部にトランスを置かないオーディオ回路構成)、サーボ・モーター……等々、当時の思いつく限りの贅沢装備をてんこ盛りにした代物で、メーカー標準価格で\42,800もした。
 ちなみにこの「1980」、短波受信とアルミ・パネルと金属メッシュで武装強化した「studio 1980II」(\43,800)、さらにはBTL回路(実はあんまり誉められた方式ではないが……)によって出力を倍増した「studio 1980 mark5」(\44,800)へと進化した。
 
 あるいは、NationalのRQ-560「音のMAC GL」のほうが古いのかもしれないが。
 こっちは、14cm&5cmの2ウェイに、ラジオカセットにはいくらなんでも贅沢すぎるフェライト・ヘッドを搭載。そのワリに機能が少ない印象があった。実際、ツマミ類は少ない。
 お値段は\45,800と、ご立派の一言。
 とはいえ、その完成度――ってか贅沢度――においては「studio 1980」のほうが勝っているので、火付け役はやっぱりSONYだと思う。
 
 大物が釣れると、そのポイントに猫も杓子も集まってしまうという日本人の体質のとーり。
「studio 1980」の成功を見た各社が、“二匹目の泥鰌”を求めてこれに追随したのは、当然の成り行き。
 
 日立のTRK-5140「PERDiSCO SR」(\42,800)、TRK-5240「PERDiSCO SRII」(\44,800)。
 AIWAはTPR-150「music 150」(\39,800)、TPR-155「music 155」(\41,800)。
 東芝ではRT-580F「ACTAS 580」(\42,800)とRT-2800「ACTAS PARABOLA」(\43,800)にRT-2880「ACTAS PARABOLA MarkII」(\46,800)。
 ラジオカセットのメーカーとしては後発の、というか、これで初めて高級オーディオ以外の分野に手を出したPIONEERからは、RK-666(\39,800)とRK-888(\44,800)、さらにRK-999(\49,800)。ついでにこのRK-666の発表時、「ラジカセ」という新語を世に放つ。
 負けじとSONYからも、CF-1990「studio 1990」という超ド級品――20cm&5cmの2ウェイ、フェリ・クローム・ポジション(要は「TYPE III」)、\49,800――が追加された。
 
 で、「音のMAC GL」では設計思想で遅れを取っていたNationalが、「HiFi MAC」シリーズとして、いくつかの新型を出した。その中の最高級機がRQ-568なのだ、たしか。
 
 18cm+6.5cm+3cmの3ウェイ・スピーカというのは、他のメーカーにはなかった。
 短波帯は受信せず中波とFMの2バンドというのは、「多いほうがいい」とばかりに皆が3バンド化する中、音質追求機種としては、かえって潔い。
 他の機能、スペックに目新しいものはないものの、さすがに最後発機種なので、デザインも含めて完成度が高い。ってゆーか、あの天下の松下が本気になってこしらえた品だからねー。
 
 だが、不幸にも、すでに市場の要求がステレオ・ラジオカセットに移行しつつあった頃なので、正直、松下の戦略は成功したとは思えない。
 \45,800もする「HiFi MAC」を買う気があれば、ステレオ・タイプに手が届いたワケだからねー。
 
 というわけで。
 妖之佑の周囲でも持っているヤツはいなかったのだ。この「HiFi MAC」。
 もちろん妖之佑も持ってたワケがない。
 店頭で触った記憶もないなぁ……ってか、現物を置いてる店が少なかったのかも。
 
 しかし、考えてみれば。
 20年以上前の四万円だ。
 当時、親御さんたちは、「買ってー、買ってー」のガキどもに、それはそれは大変だったろーと思ふ。ウチの両親も含めて♪
 
 
 
 まー、そんなこんなで。
 今、傍らで鳴っている粗大ゴミに、妙な愛情など感じつつあるのだった。
 にしても、汚いなぁ……。(;^_^A
 
 実は。
 物置にはまだ、粗大ゴミな「studio 1980」が二つばかり(こっちも負けずに汚いし、ラジオが鳴るかどうかも未確認)あったりするはずなのだった。
 
 
 
 ところで。
 こっそりとSONYのCF-1900「pro 1900」が欲しいのだが。
 どっかにないかしらん。
 いや、某オークションで買えるほどの銭などないけど……。
 
 
 
 
2003.06.14.の日記より

 
 
庭に出る

 
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