その21・サラブレッドと雑種犬


 
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※ 厳格な捉え方をなさるかたには、あるいは“ネタバレ”と受け取れる箇所があるやもしれません。

 
 
 
 
 
 押井守監督作品『アヴァロン』。
 
 お正月の深夜に放送してたので、ようやくのこと、観た(レンタルを利用しない人なもので)。
 
 相変わらずの“押井節”全開。
 ついでに言えば、相変わらずの“押井流夢落ち”作品。
 
 面白かった。
 これならDVDを買って、じっくり観なおしてもいいかな、とも思う。
 
 少なくとも同氏の『攻殻機動隊』や『ケルベロス ――地獄の番犬』、そして『機動警察パトレイバー2』よりは出来がいいと感じた(イマイチと思いながら全部LD持ってるのが困りもの)。
 
『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』、『紅い眼鏡』、『機動警察パトレイバー』(劇場版)と共に、押井監督作品の殿堂に入るかな、これ。
 
 
 
 押井守氏って、“夢落ち”系が多いのよねー。
 ざっと挙げてみると――
 
 映画では『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』、『紅い眼鏡』、『トーキング・ヘッド』、『アヴァロン』。
 
 OVAでは『迷宮物件 FILE538』、『機動警察パトレイバー 第4巻 Lの悲劇』、『御先祖様万々歳! 第6巻 胡蝶の夢』。
 
 氏のコンテを、もりやまゆうじ氏が作画なさったコミック『とどのつまり…』。
 
 そして、それらすべての原点と妖之佑が勝手に決めつけているのがTV版『うる星やつら 第101話 みじめ! 愛とさすらいの母!?』なのだ。
 
 必ずしも“夢”そのものではないが。
 ともかくどれもが、夢なり仮想現実なり嘘なり、それらと現実とが交錯してしまった物語。
 ついでに言うと、この押井氏の“夢落ち”作品には、“うろつく少女”が欠かせなかったりもする。もちろん『アヴァロン』にも、ちゃんといた。
 
 
 
『みじめ! 愛とさすらいの母!?』(このサブ・タイトルは滅茶ヘボいが……)は、TV版『うる星』の中での異色中の異色作。
 あたるの母を主人公に、彼女が夢から夢へと飛ばされ続け、どこから夢でどこからが現実なのか判らなくなる。
 常にあたるの母につきまとう狐目の女の子の存在も不可思議で……。
 これには、放送当時、かなり衝撃を受けたものだ。
 
 
 そして、その放送の九ヶ月後に公開されたのが『ビューティフル・ドリーマー』だった。
 観てすぐに、実験作であった『愛とさすらいの母』の進化・完成形態だと思ったね。これ。
 主人公は(当然ながら)ラムに変更されてはいるものの。夢邪鬼の作り出した夢の世界をうろつくデカ帽子の謎の(でもないか……)女の子の存在もあり。
 両作品が酷似していると感じるのは、妖之佑だけではあるまい。
 
 
“夢落ち”と断言できなかったので上では挙げなかったが、かの天野喜孝氏をキャラクター・デザインに起用したOVA『天使のたまご』にも、不思議な少女(声は兵頭まこ氏。ちなみにどーでもいいことだが、この人、『Vガンダム』でウッソのお母さん――首がぁ〜!――をなさってたりする)が登場する。
 もっとも、この『天たま』は未だに理解できていないのだが……。
 
 
 押井作品のもう一つの大きな特徴である、オヤジが主役というモノで『迷宮物件 FILE538』があるが、これも広い意味で“夢落ち”なんだな。
 ついでに、これにもキー・パーソンとしての女の子が登場。おまけに声は兵頭まこ氏だったしー。
 
 
 押井氏初の実写作品『紅い眼鏡』では、氏は丸々2時間、やりたい放題だったね。
 企画段階で全貌が判ってたらスポンサー、絶対つかなかっただろー、ってなブツ♪
 千葉繁氏(『うる星』のメガネ&『パトレイバー』のシゲさん)演ずる主人公・都々目紅一が延々と夢の世界をさまようお話……ってか、「話」にもなってないほどに不条理すぎ。
 もちろん、それを傍観する謎の美少女(当然だが、演ずるのは兵頭まこ氏)もきっちり居る。
 
 話の内容とは関係ないが、この作品には、『うる星』でもご活躍の古川登志夫氏(諸星あたる)、平野文氏(ラム)、鷲尾真知子氏(サクラさん)、田中秀幸氏(案山子の三四郎君。それよりは『ドカベン』の山田♪)、玄田哲章氏(ウンババの哲、他色々。それよりは『ドカベン』の岩鬼だね)、西村智博氏(コタツ猫)、そして永井一郎氏(錯乱坊)という豪華声優陣と、さらには天本英世氏(『仮面ライダー』の死神博士ね)とか、大塚康生監督(第一期TVシリーズ『ルパン三世』の人。劇場版第一作、通称“ルパン vs 複製人間”の監督でもある)とかの大御所もご出演で、かなりぜーたくな作りをしてたのだよ。うん。
 
 ちなみに、これのいちおうの続編となる『ケルベロス ――地獄の番犬』は、まったく夢落ちではない。
 そも、『紅い眼鏡』や『ケルベロス』と同じく特殊武装機動警備大隊「特機」の面々を描いたコミック『犬狼伝説』(作画:藤原カムイ氏)も、そうなのだ。夢落ちとは、ほど遠い。
 
 
 順番が前後するかもしれないが。
 コミックとして発表された『とどのつまり…』(作画:もりやまゆうじ氏)も、「アリス」と呼称される謎の女の子(こっちは美少女でなく、むしろ小汚いイメージ)と、それに振り回されるダサいアニメーター(おそらく押井氏ご自身がモデルだね)の、訳判らん物語が展開している。
 
 
『パトレイバー 第4巻 Lの悲劇』は、夢ではないものの、野明や遊馬たちが大嘘に騙され翻弄される、つまり“仮想現実”をさまようという点では“夢落ち”なのだ。
 あー、そー言えば、この話の軸となる女の子も、兵頭まこ氏だったわ、声。
 
 
『御先祖様万々歳! 第6巻 胡蝶の夢』。
 これは、このOVAシリーズの最終巻としては、取ってつけたように違和感があった。無理に“夢落ち”モノにしなくてもよかったよーにも思うのだが……。
 面白いことは面白いのだが、ね。
 
 ちなみにこのシリーズを再編集し、劇場版化した『麿呂子』は観ていないので悪しからず。
 
 
 で。
 ふたたび千葉繁氏が主役をなさった実写作品『トーキング・ヘッド』。
『紅い眼鏡』と、ほぼおんなじ展開だったね、これ。主人公が延々と迷路をさ迷うの。で、ラストは、これまたお約束。
 うろつく“傍観者”を演じるのは、やっぱ兵頭まこ氏。ただし、さすがにこの作品の時点では、もはや“少女”ではなかったな。あはは。
 脇役の立木文彦氏(『エヴァンゲリオン』の碇ゲンドウ、ね♪)が、いい味出してたなー。
 
 
『WXIII 機動警察パトレイバー』および、「特機」シリーズ最新作の『人狼』はまだ観ていないので、これらが押井系“夢落ち”に属するかどうかは不明……(それで押井ファンと言えるのか? というツッコミは却下)。
 
 
 なお。
『うる星やつら オンリー・ユー』、『機動警察パトレイバー』(劇場版)、『機動警察パトレイバー2』、『攻殻機動隊』は、まったく“夢落ち”には入らない。
 もっとも、士郎正宗氏原作の『攻殻機動隊』は、電脳世界と現実世界とのはざまを描いているので、その点で夢落ち好きな押井監督の欲望を動かしたのかなー、とは思うが。
 
 
『愛とさすらいの母』&『ビューティフル・ドリーマー』からこっち、ずっと、あーゆー不条理劇を描けたらなー、って思ってるんだよねー。
 基礎がしっかりしてないと、単なる支離滅裂なゴミになるのが目に見えてるから、着手できないんだけどネ。
 でも、いつかは、やってみたい。
 
 
 そう言えば、押井氏のごくごく初期のOVA作品『ダロス』も訳判んなかったなー。
 
 
 
 でー。
 
 押井守監督とくれば、宮崎駿監督に触れない訳にはいかない。
 なぜなら、この二つの名前は、対極として扱われるからだ。
 
 いや。
 宮崎ファン側は、押井守などという“野良犬”は相手にしていない。下手すりゃ、その存在を認識すらしていないだろう。
 だが、押井ファン側は、比較対照として宮崎アニメに触れるのである。
 
 これはある意味、因縁だ。
 なぜなら。
『ビューティフル・ドリーマー』公開の同時期、同じアニメ映画の分野で競争相手として公開されていたのが、あの『風の谷のナウシカ』だったのだから。
 
 当時、両方を観た妖之佑は、『ナウシカ』には「ふ〜ん」という感想を持ち、『ビューティフル・ドリーマー』には衝撃を受け完全にはまってしまったのだ。
 対照的に、妖之佑の友人は『ナウシカ』にどっぷりはまり、それ以前の『ルパン三世 カリオストロの城』の影響と相まって宮崎信者となり、現在に至っている。当然、押井作品など相手にしていない。
 元々、二人とも『宇宙戦艦ヤマト』にはまってたってのに、ここでその嗜好が分かれてしまったのだ。
 
 宮崎信者となった友人は、押井作品には一度として興味を示したことがない。
 対して、押井好きな妖之佑は、宮崎作品をチェックしなければならない。どうしてもね。
 
 で、そんな友人にある日訊いてみた。宮崎作品のベスト1を。
 即答で『ナウシカ』だったね。
 
 意外だった。てっきり『カリオストロの城』か『となりのトトロ』あたりだろうと予想していたので。
 実際、妖之佑的にはこの二つが最も優れた宮崎作品だと思ってるからねぇ。
 もっとも、『カリオストロの城』は『ルパン三世』ファンからは、けっこう陰口を叩かれ続けている。「あれは『ルパン』じゃないっ」と。
 が、妖之佑に言わせれば、あれはやっぱり『ルパン』なのだ。第一期TVシリーズ後半の“軽〜い”『ルパン』そのものなのだ。
 これはまったくのアテ推量なのだが。『カリオストロの城』の陰口叩いてる人って、第二期TVシリーズ『ルパン』のファンなんじゃないのかなぁ……とか思ってみたり。
 
 
 余談だが――
 押井監督で『ルパン三世』を、って企画もあったんだそうだ。
 もし実現してようものなら、それこそメッタクタにこき下ろされていたであろふことかな。
 
 
 話を戻して。
 なぜ『カリオストロの城』と『トトロ』が“ベスト宮崎”なのか、だが。
 
 まず、『カリオストロの城』は宮崎監督の原点そのものだから。きっと。
 かつて氏が原画で参加なさっていた『長靴をはいた猫』(これは妖之佑的には日本アニメの横綱である)と『どうぶつ宝島』の二本の“まんが映画”。これを舞台に、ルパンたちを暴れさせたのが『カリオストロの城』なのだよ、極端に言ってしまえば。
 機会があれば、そして興味を持たれたならば、このレトロな二本(『カリオストロの城』は観てらっしゃるでしょ? どーせ♪)をぜひ観ていただきたいと思う。妖之佑の言うことに納得していただけると思うし、何より、面白い作品だから。
 
 
 もう一つの『トトロ』は? というと。
 宮崎監督の“優しさ”・“暖かさ”のみで構成されているので、判りやすいし、納得しやすいのだ。
 観たかたはご承知だろうが、『トトロ』には悪意は、そのカケラすら存在しない。人にしろ、オバケにしろ、善意しか存在しない理想郷なのだ。
 そして、そんな理想郷でも一切の不都合なく物語が展開できる。
 だからこそ、宮崎アニメの代表作と言っていいんじゃないかなー。
 
 この二つ以外は、あえてきつく言うと、どれもこれも誤魔化し、欺瞞、そとづらの良さが鼻につく。
『トトロ』のような理想郷以外で、人間性善説にて物語を、それも“闘う物語”を展開されてもねぇ…………。
 ついでに言うと、「優しい」と称される宮崎アニメは、その“そとづら”の良さで目隠しされてはいるものの、実はかなりの“人死に”モノなのだよ。
 
『ナウシカ』では、ブチ切れたナウシカはトルメキア兵を撲殺しまくっている(原作のコミックではもっともっと死人が出てるしね)。
『天空の城 ラピュタ』では、軍人たちがけっこー犠牲になってるしー。
『もののけ姫』は言わずもがな。
『魔女の宅急便』と『紅の豚』は人死にはないが、かといって理想郷にはほど遠い。つまりアンバランス。
 
 ついでに『カリオストロの城』では、はっきり死んだと言えるのはカリオストロ伯爵と、巨大歯車に挟まれたザコ一人ぐらいだが、実際のところはねー。
 次元大介扱うシモノフPTRS1941の対戦車徹甲弾を受けては、さすがにコンバット・マグナムの.357Magnum弾を跳ね返す「影ども」とて、無事ではすまないでしょ。
 まあ、『ルパン三世』は死人が出て当たり前な世界だからいいの。元々が殺し屋のお話だから。
 
 まとまりつかなくなりつつあるけど。
 要するに。
 善意のかたまりな人ばっかで構成したいなら、『トトロ』の世界で平和なお話をやるしかないんじゃない? ってコト。
 少なくとも、機銃を使って金品強奪するよーな「空賊」どもが善人なワケないじゃん。ってコト。
 これらの映画作品に比べりゃ、TVシリーズ『未来少年コナン』のモンスリー嬢やダイス船長たちの宗旨変えのほうが、はるかに納得がいく。まあ、この作品も性善説の上に成り立ってはいるけどね。
 
 
『ラピュタ』の公開当時、宮崎監督ってば、おっしゃってたんだよねー。
「セーラー服の女の子が機関銃を撃ちまくるようなアニメは、いいかげんやめてほしい」って。
 闇に『プロジェクトA子』あたりを指してたのか? たぶん『うる星』も批判対象に入ってたと思う。当然、押井作品も。
 大御所のお言葉だから誰も突っ込まなかったけどねー。
 こんな偉そうにおっしゃるほどまでに宮崎氏の作品がずば抜けて優れているとは、とうてい思えないんだね。もちろん悪くはないけど。
 上で言ったとおり。理想に走りすぎてて、その能天気な部分がつまらん。お金を払った一観客として言わせていただければ。
 
 2004年公開予定の新作もまた、理想に走るのかしらん? 超ブランドだから成り立つんだろーねぇ。商売として。
 まあ、ジブリの売り上げに貢献してる主流は、実は目の肥えたアニメ・ファンじゃないからねー。
 安っぽい邦画やマンネリ化しつつある洋画に飽き飽きした人たちが、アニメ映画という未体験ゾーンに目を向け、しかもそれが力量のある(念のため補足しておくが、妖之佑は宮崎監督を下手っぴなどとは決して思っていない。むしろ、極めて優れたアニメーション演出家だと思っている)宮崎作品だったことでカルチャー・ショックを受けたってパターンが少なくないと見受けられる。実際、ジブリ作品以外のアニメーションは観ない、という人は多い。
 とうの昔に邦画に見切りをつけているアニメ・ファンあたりは、もっと冷静で厳しい目で宮崎作品、あるいはジブリ作品を観てるんじゃないかな。
 
 まあ、新作でもって、せいぜい日本経済への刺激になっていただきたい。ってか、妖之佑が今の宮崎氏に期待するのはその程度なのだ。
『千と千尋の神隠し』のDVD“赤問題”もあって、宮崎作品には見切りをつけてる妖之佑の愚痴でした。
 
 
 
 むーん。
 ダラダラと思うまんまに書くと、まとまりとか皆無になっちゃうね。
 でも日記だから、ま、いっか。
 
 
 
 ご静聴、ありがとうございました。
 
 
 
 にしても、久々にこんだけわめくと、スッキリするわぁ。
 
 どーだ。
 ついてこれまい。
 
 
 
 
2003.01.09.の日記をほんの少し修正

 
 
庭に出る

 
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