その17・シゴキとイジメ


 
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 相撲部屋での「シゴキ」のはずが「イジメ」になっていたらしく、そのせいで部屋を離れた人が損害賠償請求の訴訟を親方に対して起こした、というニュースを知って思うこと。
 
 
 相撲部屋ってのは一種の閉じた小国家であり、しかもスポ根精神で満ち溢れている(と思う)ため、イジメの話はいっぱいある。
 
 
 
 あくまでも噂だが――
 
 九重親方がかつて現役(つまりは千代の富士関)だった頃、同じ部屋の孝乃富士をいぢめており、そのせいで孝乃富士は一度は部屋から脱走した、とかいう噂があった。
 知らない? 小結・孝乃富士関。レスラー・安田忠夫氏と言えば判るよね。
 
 ――あくまでも裏も取っていない噂なので、念のため。
 
 
 あるいは別の話で――
 
 千代の富士関が新弟子の頃、ちゃんこ鍋の汁しか食べられなかった(正確には「飲めなかった」だよね)事とかも。
 その時には、後輩を気づかうこともなく具をすべて食べつくした先輩力士たち(もちろん幕下以下のザコ)から「汁に一番栄養があるんだ」と冷たく言われたとか。
 
 理屈は通ってはいる。鍋物の場合、汁に具のエキスがすべて溶けているので、味も栄養価も高いことは高い。
 
 が。
 しっかり歯ごたえのある具を食べるというのは、心理面では大切なことではないか。
 
 それに、栄養価の理屈を親方やおかみさんが、しっかりした口調で説明するならまだしも、たいして年齢の違わない、番付だけで上下のある“先輩力士”に言われたところで説得力の欠片もない。言われたほうには皮肉・いじめにしか聞こえなかったのではないか、と思うワケ。
 九重親方の当時の心境は判らないが。
 
 
 
 ともかく。
 上の裁判沙汰でも、こういう認識のズレがあるように思った。暴力と指導の違いというか。
 つまり“する側”と“される側”との間のギャップ。
 しかも両者の精神年齢にあまり差がない場合、問題は大きいと思う。
 
 実際にいじめだったのなら論外だが、あくまでも弟子の教育の一環というのなら、その基準をきちんと示すべきだと思う。
 あるいは、誤解(あくまでも“する側”の取り方で)するような子を、あるいはいじめをするような子を、はじめっから入門させないとかの予防措置が必要だと。
 
 
 
 ミスター女子プロレス・神取忍氏は、面接に来た入門志望の女の子たちに対して、まずキツイ言葉を叩きつける。彼女らのプライドをズタズタにするような言葉をだ。
 当然、そのまますぐに席を蹴る子がいる。捨て台詞を吐いて帰ってしまう子がいる。
 それでいいのだ。そんな子は入ってからでも、しごきに耐えられるはずがないのだから。
 
 組織内部のトラブルを未然に防ぐという意味だけでなく、これは神取氏の優しさからの行為だと、妖之佑は思っている。
 だって、入門しなかった子たちってのは、興行面から見ればお客さんだった人たちだ。そんな人を怒らせるのは、営業的にはマイナス。本来なら、レスラーを諦めさせるにしても明るく笑顔で帰っていただいたほうが、将来の収益につながるはずなのだ。
 でも、そこをあえて憎まれ役になる。なかなかできることではないと思う。
 
 
 後輩をしごくのは、それなりの“大人”でなきゃ、ってコトだ。
 
 
 
 相撲部屋は、大学相撲出身を除けば、ほぼ中学卒を新弟子に取る。
 体はともかく、心はまだまだ子供だ。
 ついでに言えば、他の進路、他のかなりの可能性を見限っての入門になる。
 そんな子供たちを預かる部屋には、それだけの責任があるわけで。
 
 少なくとも、見込みがないから辞めさせる、というのは、無責任と言われても仕方がないのではないか。入門前に、しっかりと見極める、あるいは見極められる人に見極めていただく、といった慎重さが欲しい。
 
 他のプロ・スポーツ選手がたいがい高校卒業からで充分に間に合うことを考えても、大相撲のありかた、見直していかないといけないように思うのだが。
 
 
 
 
 
 かって部活(剣道)で、たった一歳違うだけのザコどもに先輩ヅラでいじめられ続けた経験者の、ささやかな意見ということで。
 おかげで、かなり捻じ曲がったんだから、あたいの性格。
 
 
 
 
2002.09.09.の日記を一部修正

 
 
庭に出る

 
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