その10・逃れられぬ恐怖


 
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 昨日の、とある朝の番組で知った。
 
 大相撲の現役力士に41歳のかたがおられるということを。
 
 現在、序二段。
 最高位は三段目。
 
 失礼ながら、とてもじゃない実績…………。
 
 
 
 なぜ、この人が未だに現役を続けておられるのかを考えると、何か痛くなってきた。
 
 
 
 男の41歳といえば、本厄にあたる年齢。
 人生で、そこそこの経歴をふまえてきての節目に当たるところだ。
 
 しかし、この人の場合はどうなのだろう?
 
 この年齢になるまで相撲を続けてきて、相撲でお金を稼げたことがない。
 これをご自身、どう、とらえておいでなのだろう?
 
 
 
 ご存じでないかたのために。
 
 
 日本相撲協会に所属する力士の中で、協会から給与を貰えるのは、関取、つまり十両以上の力士だけなのだ。
 
 ちなみに番付の格段は上から、
 
 幕内、十両、幕下、三段目、序二段、序の口
 
となっている。そして、幕下以下は、給金・給料は、ないのである。
 
 ただし本場所で格段ごとの優勝をすれば、それなりの賞金は出る。
 また、本場所に臨んでの手当が少額ながら出るには出る。
 
 しかし、まっとうな収入からはほど遠い。
 
 まあ、部屋に住み込みなので、衣食住の保証がある分、お笑いの若手芸人さんに比べれば遙かに良い待遇だとは思うが。
 
 
 
 にしても、41歳。
 
 色々考えることもおありだと思う。
 
 
 長く勤めた人には、それなりの経歴というものがつくものだ。普通は。
 
 
 だが、この場合はどうなのだろう?
 
 
 これまたちなみに、うろ憶えで恐縮だが。
 
 スポーツ選手が喧嘩をした場合、素手であるにもかかわらず「凶器を使用した」として検挙されることがある。
 ボクサーとか空手の有段者とか…………。
 
 大相撲では、この扱いを受けるのが、幕下以上だったと思う。
 
 つまり。
 三段目では、相手にされないのだ。世間では。
 
 
 
 念のため。
 
 協会に親方として残るには、幕内で一場所、もしくは十両で何場所(ごめんなさい。数字忘れた)かを皆勤という最低条件がある。
 
 しかも年寄名跡には定員があるため、元三役ですら、下手すると親方になれずに協会を去る羽目になるのだ。
 
 年寄名跡のない人には「若者頭」というポストもあるにはあるが、こちらの定員はもっと少ない。
 
 いずれにしても、最高位三段目の力士には、引退後の席など、協会内にはどこにもないのである。
 
 
 
 
 協会を去った(以前は「引退」と区別して「廃業」と言った)元力士によく見られる道は、ちゃんこ屋さんの経営。
 そのために、しっかり貯蓄をしている人は多い。
 
 しかし、この人の場合、そもそも給料がないのだ。
 
 もちろん長く部屋にいる人だから、親方からの月々の志などは貰えているものと推察できる。
 とはいえ、将来、何かをするための資金を蓄えられるレヴェルとも思いづらい。
 
 
 
 失礼な邪推をさせていただくなら、他に食べていく方法が見つからないから、やむをえず部屋に居着いている、ともとれなくはない(ごめんなさい)。
 
 
 
 
 支離滅裂だが。
 
 自分がこうして「作家でごはん」を目指している状況に照らし合わせると、どうしても痛いのだ。
 
 自分にも経歴・特技・実績・財力・地位・名声・超能力…………なんにもない。
 
 にもかかわらず、不安定な道を目指している。
 しかも、逃げ場もなく。
 
 
 正直言って、やり直しのきかない所まで来ていると、そう思う。
 
 
 
 だから、先の人のことをTVで知って、痛い。
 
 
 
 そして、怖い。
 
 不安だ。
 
 
 
 
 気にしてたら、こんな道を目指せるはずもないのだが。
 
 ふと、己の立場を思い知らされる瞬間が、こうして時々訪れるものなのだ。
 
 
 
 
2002.01.21.の日記より

 
 
庭に出る

 
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