半生瞬着(Φ×Φ)ロリィ・ミィ
ちゃららららっちゃらっちゃらっ♪
OPテーマ「My Life」
ポジティブなんてガラじゃない
ネガティブなんかもやっぱイヤ
ちゃっかりうっかり まったりもっさり
それがわたしの暮らしかた
青いお空を見上げれば
不思議と財布の軽さも消える
今日か明日か明後日か
どこなのだろう いつなのだろう
王子さまには 縁がない
あたしの人生 今いずこ
〜〜 この番組は、 〜〜
〜〜 日本ラクドアルド・バンザイ・ぽにー他、〜〜
〜〜 ご覧のスポンサーでお送りします 〜〜
第八話(嘘) ライフライン消滅!
フリルぶりぶりジャンパースカート、基本はピンク。それが普段着で、髪は御約束のハニーゴールドに幅広リボンで纏めたツインテール。胸はもちろん、ないんぺたん。
が。実は彼女、二十歳だったりする。名は高円寺碧子――深窓の令嬢っぽ過ぎて、誰もに笑われる。
そんなロリポップな彼女が、スプリングのいかれた凸凹ソファー(資源ゴミからの贈り物)に寝そべって、腐っていた。
「あ〜〜〜〜〜〜う〜〜〜〜〜〜あぢいっ」
くりんとしているはずの目は、死んだ魚類のそれである。頭から立ち昇る湯気は、発酵しているからかもしれない。
真夏の西日さし込む部屋の室温は、四十度に迫る勢いだった。開いた窓、よれよれレースカーテンはぴくりともしない。見事なまでに無風であった。
「あぢいよぉぉぉぅぅぅう」――死む。
電気が止められたのは三日前。原子力発電所を深部に備え、常に電力余剰の人工浮島ネオフロートでは、都市ガスなどという気の利いたものは三十年前の建造計画段階で排除されている。二〇三二年現在、オール電化、レッツクリーンの大儀の元に、日本からガス設備自体が消滅した。
電気途絶えた部屋では、水道だけが最後の綱である。
まだ蛇口を捻れば水は出るが、それも時間の問題だった。
明後日か明日か。はたまた今夜かもしれない。そうなれば、三日も持たずにロリ木乃伊の完成となろう。
連日連夜、日本は熱帯。1Kの安アパートは灼熱地獄、碧子の銀行口座は永久凍土。
碧子は、壁際に正座した栗色ボブカットの等身大人形――ピンクの甚平――に語りかけた。
「……ねーリカちゃぁん。いつから、仕事してなかったかなぁ?」
「七百十九ぅ時間ん二十七ぁ分四十八ぃ秒ぅぅぅぅ前ぇえかぁらあでぇす。およそぉ三十日ぃぃですぅねぇ」
人形は、調子外れと許されない口調で返答した。
「やっぱ、怪しげな音声モジュールなんて買うもんじゃないやね」あーもー最悪だわ。
愛称リカちゃん、商品名【小松崎梨花】。
小松崎エレクトロニクスの廉価版ヒューマノイドタイプマルチユースコンピュータ――人型端末LP801・RF、定価¥3,329,980である。ちなみにシリアルはa0059。八年ほど前の型だ。仕事上ノーマルのままとはいかず、駆動系を中心にジャンクパーツでカスタムしてあるために、動作は不安定。当然、メーカー保証外――期限など、とうに切れているから関係はなかった。中古であることだし。
リカは前回の仕事で大破した。暴走四トンHV(Human type Vehicle・人型車輌)との相撲に、下手投げで勝利した代償だ。碧子は、そのHVに跳び膝蹴りでKОされた。が、失神しただけの碧子は、人型端末よりも頑丈だということだ。
「〜〜組織が倒産しなくちゃ、今ごろは――ねえ」
碧子が傾倒していた世界征服目的系宗教団体【猫の宴】(小規模)は、銀行と共倒れ。隠れ蓑としていた零細企業に、会社更生法の適用などなかった。碧子の『改造』も中途で終わり。
すこぶる頑丈、しかしパワーは常人の倍に届かない程度。それが改造人間・高円寺碧子――コードはロリィ・ミィ。現在の職、交渉屋。認定資格など存在しないから、名乗った者勝ちという、いい加減な職種である。
【交渉に必要なものは真摯な口車と、納得させるだけの腕力】
碧子の信条だが、あながち嘘ではない。
【言って効かなきゃ、ぶん殴る】古からの絶対法則である。もっとも、重火器装備のキ印説得等の依頼が多いため、身の危険は高め。警察に届けられないような依頼もしくは、警察の先回りをするのが日常だったりする。
動く金銭は裏金が基本。すなわち、収入に対する納税義務はあってないに同じ。旨味があるといえば、そこだろう。
が、依頼がなければ、要は無職。
「いまさら生身に戻れるわけでもないし、ねぇ?」
――我ながら。人生間違ってるわ、ほんと。
「どー思う、リカちゃん?」
「このぉままぁ収入がなけぇれば、標準モぉードぅでぇわぁたしの燃料ぅぅ電池は十八ぃ時間二十ぅ六分五十秒ぉぉぉ後に使ぃ用限界となりまぁすぅ」
リカが座したまま動かないわけである。
「……黙っといて。電池もったいないし、ついでにウザいから」
水でも飲むべし、と碧子は身を起した。最後のライフライン、キッチンの水道へと、熱気を放つ板張りの床をつま先歩きでよろめきつつ向かう。
と。リカが呼びとめた。
「お電話ぁですよぉ」
人型端末は、その使用目的上、高速通信モデムを搭載している。電話機能は副次的なものだ。が、碧子の電話は、リカ一体のみ。基本料節約のためだ。
「つないで」
素っ気無く答えて、碧子はふらぁふらぁとシンクに辿りついた。
「はいぃではつなぎぃまぁすぅ『やあ、碧子くん』」
「んげ。モンジャだ」
電話の相手は、モンジャという情報屋だった。仕事柄、碧子はこうした輩と付き合いがある。このモンジャという男、少々性質が悪い。郷愁溢れる下町名物を名乗る奴に、まっとうな人格などありはしないのが世の通説。
『お仕事あげよう。今日の夕方六時前、西地区アルパ前のコインロッカー126。開鍵パスはいつもの通り♪ 遅れないでね』お電話ぁ切ぃれましぃたぁ」
「また言いっぱなしっ? しょーがないな」
ぼやきつつ、碧子は蛇口を捻った。
――ぽつーん――
外道な情報屋からの阿呆な仕事とて、選ぶゆとりはないらしい。ライフラインは今、全て断たれた。
「……ああ無情……ふ。行こ、リカちゃん」
「了ぅ解ぃぃ」
だるさの充満したその返事に、碧子は眩暈を憶えたのであった。
超々大型家電販売店舗アルパビル、地上五十階地下三階。高さ二百五十メートル。売り場に並んでいるものは、小さいものなら原子単位ナノソーラーセル、大きいものならFC(フューエルセル)トラック。電気で動くものならば全てが揃っている。人型端末はもちろん、原子力電池の機動看護婦まで。
機動看護婦とは、文字通り機械動作の看護婦だ。老人社会の強い味方である。自律コンピュータ人型端末の医療プラント内臓版と言えよう。ただし、介護という中途放棄不可能な商品目的から、作動時間は最低でも十年を保証されている。同様の理由で、作りも【より本物らしい】。人型端末が等身大人形ならば、機動看護婦は、ほとんど人間。
一部の熱狂的な人々(98%までが男)には、至上の憧れだ。アルパビルの別称がオタク天国なのは、そのせいでもある。
暮れなずむ茜色の空にそびえたつビルの姿は、古のバベルを彷彿とさせる――人の欲望が渦巻いているところも、そっくりだったりする。
その正面ゲート脇のロッカースペース、桃色甚平人形をつれたピンクロリ服の少女が、街行く人々を尻目にうろうろしていた。碧子だ。
「んっと。126、126と――リカちゃん、これお願い」
「はぁい」
リカの左人差し指第二関節が、ぱきんっと逆に折れる。出てきた細いプラグは標準汎用規格だ。赤く発光するカードスロット下のコネクタにリカが差し込む。一万桁、言語と数字でランダム構築された【いつもの】パスコードを送信。
ロック解除の電子音、カードスロットの光が赤から碧に。
「ごくろーさんっ」と、碧子がロッカーを開けた。間口三十センチ四方、奥行七〇センチのスペースに、ちょこんっと鎮座しているのはコミカ(コミュニケーションカード)だった。クレジットカード、携帯電話、簡易情報端末と多機能の、現代人の必須アイテム。
と、いきなり電子音とともに、コミカ自体が青く点滅する。着信だ。
碧子はしかめっ面でコミカを手に取った。全面タッチパネル液晶だから、どこをどう突っついても電話は受けられるのだが、碧子は端を指で弾いた。鼻糞でも飛ばすように。
「なんのつもり、モンジャ? デートのお誘いとか?」
軽口だが、眉根は仁王のそれである。
『いやいや。そんな、誰がそんな大それたことを。ちゃんと仕事だよ、たぶん』
「あっそ。別にデートでも良かったんだけどね、あたしってば餓えてるし」
『おや、男日照りとは。まあ、髪型さえ変えてくれたら、僕も考えよう』
「絶対に嫌。あれだけは」
『あ、そう。それは残念。でもそのビルなら、キミみたいなロリっ娘はそのままでも大人気だよ♪』
モンジャの弁は正しい。事実、正面ゲートというロケーションから、こちらを盗み見る輩は多い。ほとんどがアルパビルの常連、病名肥満な方々ばかり。ツインテールに桃色フリルという服装は、きっと羨望の的だろう。
碧子は修羅の風貌と化してコミカを怒鳴りつけた。
「どやかましい! お腹すいてるだけだ! ごはん奢ってくれるんなら、あんたみたいな外道でも、ディナーくらいは一緒してやろうかという妥協よ妥協っ!」
『ま、どっちでもいいや、そんなの』あっさりといなすモンジャ。『それより、そろそろかな?』
「なにがよっ!」
『いやあ。ちょっとアングラネットでさ。今日の午後六時、そこでちょっとしたテロが起きるとかなんとか』
碧子の目が見開かれる。「……まじ?」
『まあね。情報のあったサイトは一ヶ所だけ。アルパには今日もオタクが一杯いるようだから、他のサイトに流れてるってことはなさそうだし、信憑性は薄いね。でも、万一テロが起きて、いち早く鎮圧したら、アルパから金一封と警察から感謝状くらいは――』
ぐどぉおんっ
モンジャの声を蹴散らして、爆発が轟いた。
音源を辿って、碧子が空を見やる。どうやら、アルパビル最上階のようだ。
「最上階って、イベントフロアっ?」
『新型機動看護婦のプレゼンテーションやってたかな――ま、いいや。とにかく起きちゃったね、テロ。んじゃ、頑張って♪』
弾んだ声は途切れた。あとはネットニュースで観覧ということだ。
碧子はジャンパースカートの前ポケットにコミカをしまうと。モンジャがこの場にこないわけだと、肩をすかした。
しょうがない。「リカちゃんっレッツ吶喊!」
「了ぅ解ぃぃ」
緊迫感皆無の返答を背に聞き脱力しつつも、碧子は混乱の売り場フロアへと走った。
むやみやたらと広いゲートをくぐる。遥か頭上の『いらっしゃいませ』自動音声を聞き流して見る前は――
阿鼻叫喚の人津波。異変に慌てた客たちの、怒涛の逃走模様だった。老若男女、肥満気味が多いのは店舗の対象客層からか。
「きゃあああああっ」
碧子とリカ、仲良く人波に飲まれて流される。瞬く間に外へと押し出された。
「熱苦しぃっ」
「芳ぁしくないぃですぅね」
「どさくさに紛れて、どこ触ってんのよ!」
眼前の、丸っこい青年の顔を張った碧子。
「ええいっしょーがないっ!」
どこから出したか、猫顔がモチーフのメタルバックルベルトを腰に装備し、腕を振り上げる。もみくちゃにされるその姿は、阿波踊りに似て見えた。
「半・生・瞬・着――ロリィ・ミィっ!!」
変身だ。御約束の閃光が疾る。光に包まれた碧子、半裸でくるくると――しない。頭に三角形の三毛柄猫耳が生えただけだった。
「とおっ!」
一応跳びあがる。が、せいぜい普通少女の倍の脚力では、平方メートル当り十人はいるのではないかという密集状況では無駄。
ならば他力と、ロリィ・ミィ――碧子は叫ぶ。
「リカちゃん高機動モード!」
「はいぃ」
改造人型端末の本領発揮、ふくらはぎの外装が開いて外燃式アポジモータノズル(違法改造)が露出する。
碧子を抱えてリカは飛んだ。推進力約一トン、文字通りに炎を引いてゲートを越えた。
眼下では、
「あぢぢぢぢっ」「うおっ猫耳コスプレ?」
「どこの人型だぁっ?」
炎にさらされた人々が、好き勝手に騒いでいた。が、受け答えをする暇はない。目差すは最上階、たぶんテロリズムだろうの現場である。
と。リカからの排気炎が細くなる。
「プぅロペラぁント残量なしぃ」
燃料電池すら交換する金がないのに、推進剤に投じる予算などはなかった。残っていたことが奇蹟だった。
「やっぱしっ?」
落下。下はもちろん、人の海。
「まだよ! まだ終わらないわ!」
改造人間ロリィ・ミィは、凡人に飲まれるわけにはいかない。でなければ、今はなき結社に顔向けできない。
「お、俺を踏み台にしたあっ?」
どこかの誰かの頭を蹴って、碧子は急いだ。
「すぅいませぇんん」
リカが続く。やはり、人の頭から頭へと飛び石を渡るように。
ちらっと碧子は横を見た。リニアエレべータに赤いランプが灯っている。非常停止状態だ。エスカレーターも同様だろう。
このビルは五十階立て――先は長かった。
『CM』
「今日、何日だっけ?」「休日です」
朝ラック・セット、倍額!
「今日って何日?」「休日だよォ」
ビックラックマフィン、倍額!!
「きゅうじつぅぅぅ」「はいはい」
ダブルラックバーガー、倍額♪
休日全品、倍額!!!!
日本ラクドアルド
幼稚園くらいの女の子、腰の猫顔バックルに手を当て、
「半・生・瞬・着――ロリィ・ミィっ!!」
CGによる光効果。女の子、猫耳少女となる。
さあ、これであなたもロリィ・ミィ♪
悪者なんか、やっつけちゃえ!
ロリィ・ミィ、変身セット。バックルと猫耳と、満月先生描きおろしイラストのコミカ付きです。デパートかおもちゃ屋さんでネ。
ただ今、等身大【小松崎梨花】フィギュア、プレゼント・キャンペーン実施中!
バンザイ
どうも。ぽにて大好きタレントの雪野です。
一言、申し上げたい。
世の若い女性の皆さん! 髪型をポニーにしてください!
間違っても切ってはなりません。ショートカットなど言語道断ですぞ。
さあ、あなたも今すぐに――あっ、何をするんだ!? はっ放せ! まだ言いたいことがぁぁぁぁぁぁぁ……ザー、プツンッ。
たいへん失礼いたしました。
ただ今、生CM中に手違いがございました。お詫びいたします。
それでは、後半をお楽しみください。m(_ _)m
アイキャッチ
(こける碧子、指差して笑うリカ。背景は誰かの横顔シルエット)
踏む飛ぶ蹴倒す薙ぎ払う。
数多の人々を犠牲に(おそらく殺してはいないが)どうにかこうにか、ふたりは最上階へと辿りついた。直径はおよそ百メートル、円形のフロアは半ば焦げていた。スプリンクラーは作動中。消火液剤の噴霧に煙の収まりかけたなか、わずかに漂う刺激臭。熱気はすでに収まっている。
ヒビの走った壁、大型液晶モニタは滲んでしまって表示されていた画像も文字も読めない。床に散らばるWebボードの残骸や看護婦人形の促販グッズから、モンジャの情報通り機動看護婦発表会が行われていたと判断できた。
人影はひとつ。他は全て、逃げたらしい。黒髪ポニーテールに白いメディカルウエアの女性が、窓から外を覗っている――機動看護婦に違いない。この惨状に、無傷なのだから。
「んぜっんぜっんぜっんぜっ」息急き切らしてきた碧子が、びしっと【それ】の背中を指差した。
「ぜひっぜひっ、んぜんぜひっんぜぜっ」
なにやら喚くが、言葉になっていない。気を利かしたか、リカが訳した。
「あぁんた、なんなぁのよぉ、と申されぇているぅようでぇす」
指差し確認の姿勢のまま、碧子が息を整える。ぴくんっと猫耳が動いた。
「はひっはひ――ふぅぅぅぅ。正解、リカちゃん。こら、そこのテロ人形っ!」
束ねた髪を揺らして、機動看護婦が振りかえる。
「わたしは、テロ人形などではありません。メディカルマシン・ホープムーンコーポレーションの機動看護婦、量産型ポニテリオスMk14・桔梗です」
作りものであるから当然とも言えるが、その黒い瞳は真摯であった。が、信用などできるはずもない。
「変なコスチュームプレイ中の貴女、体温が四十度を越えています。直ちに病院で適切な処置を」
だが、桔梗と名乗った機動看護婦は、碧子の風体を『変なコスプレ』と言いきったあたりからして、狂ってはいないようだった。
「改造人間だから、四十度なんて平気っつーか変身中は当たり前っ、だからお腹が早く減る! それより!」
伸ばしたままの人差し指を、ぐるりと部屋に巡らした。
「これってば、あんたの仕業?」
「はい。細菌が捲かれたので、焼却滅菌処理しました」
バイオテロだったということだ。それをこの機動看護婦が処理した結果が、先の爆発。
「そっかあ」納得する碧子。「っておい! ここにいた人々は!」
表情一つ変えずに、桔梗が答えた。
「無事でした。通常、現代の衣服は難燃素材ですから。皆さん慌てたように出ていかれましたが、お会いになりませんでしたか?」
言われてみれば、スーツの一団を見たような気もする。
「あっそ。無事ならいいんだ無事なら」
手を振りながら碧子が踵を返す。と、立ち止まってすぐさまスカートの裾を翻してリカへと迫った。
「――ちょっとまてい! んじゃ、あたしら無駄足っ?」
「そうぅなぁりますねぇ。カウンターテぇロは、速やかぁに終わっていぃますかぁら」
間延びした声で、相棒が答えた。事実だ。問題は発生直後にクリアされていた。
「――うぞ。ただ働き?」
第三者から見れば、働いていないという指摘もあろう。だが。
「納得いかないなあ……というわけで」
碧子は、桔梗へと向き直ると手を合わせた。
「お願い。尊い犠牲になって」
属していた結社の標語を、碧子は思い出していた。
『口実は 作ってしまおう にこやかに』
にっこりと、【元・悪の改造人間】は微笑んで見せた。
――機動看護婦の暴走。それでいーじゃん。
かつて、3Pという機動看護婦試作機が存在した。一個師団を凌駕する火力と核融合炉を備えた機体が。
量産されるにあたって、融合炉は危険性の少ない原子力電池に、過ぎた銃器はオミットされ、医療用機能のみとされた。
それでも。一体で数十人の患者を受け持ち、いかなる職務も完璧かつ迅速にこなすように与えられた動力性能は、やはり並ではなかった。
「なんっつー早さよ!」
桔梗の右上段回し蹴りをブリッジで躱した碧子が、そこから後ろへ跳ね飛んだ。入れ替わってリカが蹴りをくぐる。桔梗の軸足を払おうと、姿勢を低くしての水面蹴り。
リカの狙っていた足が床を蹴る。身を捻った桔梗が、縦の左胴回し蹴りをリカに落とした。
めがんっ リカの右肩に、桔梗の踵がめり込む。折れるかに見えたピンヒールは想像以上に強固な構造らしく、それがリカの腕をもぎ落とした。
「攻ぅ撃ぃ力二ぃ十二パーぁセント低下ぁ」
情けないリカの声に、碧子が後ろの壁へと跳んだ。壁を蹴って上へ、翻って天井に着地して膝を溜める。
「電光竜巻極破仏滅天誅征服猫キィィイィック!!!」
着地した桔梗が、追い討ちとリカを蹴り飛ばすと腕を交叉させて防御の姿勢を作った。
と。碧子の足が湿った天井で滑った。
反転してキックのはずが、頭から落下。なぜか受けとめようとした桔梗の腕をすり抜け、パチキをかました形となった。
ごちぃぃん
ぶぅぅぅぅぅぅんっ
予想外の衝撃に、機動看護婦の電脳が保護モードになったらしい。桔梗がフリーズする。
頭をさすりさすり、碧子が立ちあがった。
「リカちゃん。やっちゃって」
「いいのぉですぅか、こぉぉれは偽ぃ造になりまぁすが」
右手を失ったリカが、困り顔で返した。
「いーのよ、証拠なんか残さなきゃ。背に腹は変えられないし。ほれ、あんたの燃料電池のためにも」
「しぃかたぁあぁぁりませんんね」
桔梗へと歩み寄る。機動看護婦頭部後ろの通信ソケットに、左人差し指の汎用プラグを差し込んだ。
「では――ぁぁぁぁぁ……」
電池切れか、誤作動か。リカもまた、停止した。データなど書き換え終わっているはずもなく。
オブジェと化した人型二体を前に、碧子は右往左往するのであった。
無論、変身したままで。
「……づがれだ。もーいや」
外で瞬くネオンのみが部屋の明かり。少しでも風をとカーテンさえも開け放ち、ソファーに突っ伏して茹だるは碧子だった。壁際に正座したリカは片腕のまま。壊れた右腕が、所在なげに床に鎮座している。
警察では、すっかりテロリスト扱いだったのだ。改造人間だとばれなかったのは、変身した姿がただのコスプレにしか見えなかったから――中途半端な自分に、この時ばかりは碧子も感謝した。が、それでもやはり事情聴取は長かった。食事だけだ、嬉しかったのは。
今更ながらのテロ犯行声明が、政府とホープムーンコーポレーションに届かなければ、きっと今でも留置所。もっとも、その犯行声明が【子馬友の会】と名乗る組織であったから、信憑性は怪しいものだ。機動看護婦のメモリと声明文に記載されていた細菌名が一致していなければ、いたずらと判断されていただろう。
ともあれ、釈放されたのは、ありがたかった。家に帰ってきたのは実に一週間ぶりのことである。
「結局、このコミカだけぇ?」
頭だけ持ち上げて、碧子はロッカーで手に入れたコミカを眺めた。安物だから、床に投げ出したまま。売っても牛丼三杯の金にもならないものを、どうするつもりにもなれなかった。
と。コミカの全面が青い点滅、響く着信音。
通話に応じる気力もなく、ぼけーっと碧子はコミカを眺める。勝手に留守録に切り換わるからと。
『ただいま電話にでられません。発信音のあとに、メッセージをどうぞ』
お決まりの合成音声と、ピーという電子音。
『やあ碧子くん。モンジャだよ。災難だったねえ』
むやみに明るい声が、けだるい空間に響いた。録音中のメッセージに、ぼやく碧子。
「やかましいっ」
『これで貸しひとつだね。僕なんだ、嘘の犯行声明送ったのは』
「そんなとこだと思ってた」
碧子は深く深く溜息をついた。
『というわけで。次の仕事の時は、貸しを返してもらうから。ここはひとつ、ポニーティルで出動よろしく♪』
――廃業しようかな? 儲からないし。
改造人間に、他に職はあるのか?
相談しようにも、電池の切れたリカはただの人形だった。
それとも。人知れず、正義のために闘うか――ちょっと考えて、すぐ止めた。
「それじゃ、餓死するってばぁ」
あたしの明日って、どっちだろうねぇ。
「ぅ〜〜〜〜似あわないじゃん、猫耳にポニテってばぁ。とほほーっ」
うだうだしていても腹は減る。おもむろに髪を纏めたリボンを両方、解いた。片方を床に落として、もう一本で髪を後ろで高く束ね直す。
「仕事、入ったりして……なぁんてね」
ぴろりろりん♪ ぴろりろりん♪
「……ストーカーかい、あんたは」
EDテーマ「Do Demo」
ああ
今日もただ働き
ああ
きっと明日も同じこと
いっそ猫ならいいのにね
誰かの膝で欠伸をしたい
誰かの胸でまどろみたい
そんな夢など見れないわ
改造人間で半端もの
童顔でチビで胸もない
人はあたしをロリと呼ぶ
どーでもいーや そんなこと
ひゅるりぃひゅららぁぱぁぁぁ♪
・
・
・
ちゃらっちゃらっちゃららっ♪
動かないリカちゃん!
とっくに尽きた貯金!
食べるため、生きるため、
プライド捨てた碧子が走るっ!
次回、半生瞬着ロリィ・ミィ
『ポニーティル乱舞』
「あー期待しなくていいわよぉだってやる気ないから。あたし」
〜〜 この番組は、 〜〜
〜〜 日本ラクドアルド・バンザイ・ぽにー他、〜〜
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2001/7/28 笑う満月
Copyright © 2001 Warau-Mangetsu.
All rights reserved.
(・・;)
何も言葉はございません。
満月さん。ありがとうございました。
なお、CMパートのみ、作者のご依頼により、不肖・妖之佑が制作いたしました。