第壱夜
おぬしは「妖怪」と聞いて何を連想なさるかね?
人に憑りつくだの、呪い殺すだのと、おどろおどろしいことばかり思いうかべるかもしれんのう。
じゃが、それは誤解じゃよ。異国の怪物どもは知らぬが、日本の妖怪たちは、それは無邪気なもんじゃて。
まあ、一部には不届き者どもの例外はあるがの。
それに気のいい連中も時々は人を驚かすが、それは愛敬ちゅうもんじゃよ。
ひと口に妖怪といってもな、種類は様々じゃて。
見るからに異形のもの。
形があるようでないもの。
光とか音とかだけのもの。
わしら天狗のように、人に近い形のもの。
どう見ても、人にしか思えぬもの。
単なる動物。
……などなどじゃ。
単なる動物と言ったがな。狐や狸どもや、猫股のことではないぞ。奴らは動物が転じ、神通力を得た妖怪。最早、普通の動物ではない。
わしのいう動物とはな、学者連中が未だ見つけておらぬ生き物。ああ、ほれ、未知生物・UMAとかいうじゃろう。あれじゃよ。
一例をあげるとするか。
昔から日本中の山々に出るといわれてきた妖怪がおる。
「槌転び」「野槌」「筒腹」「苞っ子」「槌蛇」なぞと地方ごとの呼び名があるがの。特徴は同じじゃ。
山中に現われるずんどうの蛇の化け物じゃて。
ほうれ、聞いたことがあるじゃろう? それじゃよ、それ。
今は、「ツチノコ」という全国共通の名を持っておるのう。これは「槌の子」からきておってな。
槌というのは金槌のことではないぞ。昔ながらの農家の作業や、あるいは祭の注連縄作りなぞで、藁を柔らかくするために木製の太い筒のようなもので叩いておる様子をテレビで見たことはないかの? あれが槌じゃ。
その槌が変化した妖怪じゃと、人は考えておったようじゃのう。じゃが、あれは、ああいう形の生き物じゃ。本当の妖怪ではない。数の少ない絶滅危惧種かもしれんのう。
昔から山には山童(やまわろ)という毛むくじゃらの人型妖怪がおると言われておるがの。あれも真の妖怪とは言えぬて。
深い山に出没して、全身毛だらけで、大柄な人の形……。これも何かを連想せぬか?
イェティとか、ビッグ・フットとかいうのがあるじゃろ? そうじゃ、雪男じゃ。一部の学者の意見では、生き残りの原人とか旧人類ではないかと真面目に考えられておる。日本にもその仲間がおるのではないかのう。
昭和の頃、広島あたりで「ヒバゴン」とかいうのが話題になったことがある。あれも同類じゃろう。
他にも、学会が認めておらぬゆえに、化け物扱いされておる生き物がたくさんおるのじゃろうて。
昔はゴリラは怪物視されておった。そういう境遇の動物が妖怪として言い伝えられて今日に至る。面白いがな。妖怪そのものの話ではなかったのう。
次は、ちゃんと妖怪の話をしてやろう……と思う。
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参考文献: 『日本怪談集 妖怪篇』今野圓輔
『絵本百物語 桃山人夜話』竹原春泉
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