水木しげる伝の感想
★
戻る
『ボクの一生はゲゲゲの楽園だ』
『神秘家水木しげる伝』
水木しげる翁の自叙伝です。
他にも自伝は、いろいろありますが、この二つがたぶん筆頭でしょう。
共に、ご本人の子供時代から作品発表時点までの半生が描かれています。
分量的には『楽園』のほうが圧倒的ですが、双方で補完しあう部分もありますから、両方お読みになるほうがよろしいと思います。
例えば、原稿料で揉めた例の兎月書房の「バカ社長」は『楽園』にしか登場しません。『続鬼太郎』の幽霊屋敷に変な間借り人ばかり来る理由も、これを読んで判明しましたし。『河童の三平』などで役人が必ず悪役なのも、これを読めば納得。
一方、『惡魔くん』については『神秘家』のほうが判りやすく触れており、このおかげで「貸本版は打ち切りだったのか?」という私の疑問が解消されました。また、三洋社倒産のあおりで原稿が紛失、幻の作品となった『墓場の鬼太郎』の「亀男の巻」について触れているのも、こちらのみです(ほんの少しですが、再現された絵があるのが貴重かも)。一部で話題になった「泥田坊」のガチ話も『神秘家』に載っています。
やっぱり両方読んだほうがいい。
内面的にも、「漫画家・水木しげる」がどうやって形成されていったかを知る貴重な資料だと思います。有名な「のんのんばあ」も登場しますし。
特に少年・青年時代は「変わった子」という表現ではとても足りない、あまりにも普通じゃない人(笑)。
水木サンって蛭子能収さんと似てるんだなあと、葬式のシーンで思いました。ありゃさすがに酷い。
売れっ子漫画家になってからもなお南方に憧れ続けておられた理由も、これを読むとよぉく判ります。だから鬼太郎だけでも楽隠居させてやったんだな水木サン。
そして、昭和を描いた歴史書の性格も併せ持つ。
水木サンが少年だった比較的のどかで、なおかつ今では考えられないほどに庶民の言動がムチャクチャだった戦前(ほぼ『こち亀』を地でいってるよ)。
青年になり周囲がキナ臭くなっていき、じきに開戦、兵役に就いての理不尽で無慈悲で命辛々な南方での日々。
左腕を代償に復員したらしたで、喰うや喰わずな戦後の日々。
そして、売れっ子となって生活が安定するも、仕事に忙殺され続ける日々。
水木サンならずとも、同世代の人々皆、似たような状況だったんじゃないのかな。
アニメ『鬼太郎』の五期や六期で初めて「水木しげる」を知った人でも、この昭和史は興味深く読めると思います。漫画という表現は本当に馴染みやすいから。
それにしても水木家、いえ武良家は茂少年だけでなく、ご両親も中々に個性的な人物だったんだなぁ。
南方で部隊全滅からの何度も死にかけた水木サンですが、よくよく考えると部隊があっさり壊滅したのって水木二等兵が原因じゃね?
戦後、水木サンの周辺を囲む人々、白土さん、つげさんなどなどがかなりの変人あるいは妖怪級として描かれてるけど、水木サンあんたがそれいう?
などと、笑っちゃいけないんだろうけど笑ってしまいます。
愛嬌として、所々に創作要素が入っているので、少しだけ御用心を。
と言っても妖怪がどストレートに出るとか、貸本版『鬼太郎』の流用だったりなので、読んでても混同はしないでしょうけどね。
『のんのんばあとオレ』
のんのんばあは、世間的にはドラマで有名になった名前ですね。
個人的には、水木翁の妖怪解説本で頻繁に出てきた名前という認識です。神秘家・水木しげるの師匠であり原点と言えるでしょう。
内容的には『ボクの一生はゲゲゲの楽園だ』の少年時代と、かなり被ります。寸分違わぬ箇所も多い。
この意味で、水木しげる伝の一つと言えると思います。
一方で、まったく違う部分もありますが、ここはフィクションという感じがします。
確証があるわけではありませんが。
ともあれ、↑の二作品とは性格が違うものです。
どちらも面白いことに違いはありません。
収録本
『完全版 水木しげる伝』 講談社漫画文庫(上中下巻)
『ボクの一生はゲゲゲの楽園だ』を改題したもの。
上巻が戦前、中が戦中、下が戦後と判りやすく分かれているが、全編通して読まないと意味がない。と思うぞ。
下巻の巻末に収録された「水木しげる詳細年表」(関東水木会)がまた圧巻!
『私はゲゲゲ 神秘家水木しげる伝』 角川文庫
『神秘家水木しげる伝』を改題したもの。
カドカワムック『怪 KWAI』に四回に渡って連載されたもので、大まかに戦前、戦中&終戦直後、戦後、平成と分かれている。
『のんのんばあとオレ』 講談社漫画文庫
ちくま文庫版もあるが、そちらは読んでいないので比較できない。
|