黒い鬼太郎の感想など


 
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 貸本漫画時代の鬼太郎が怖くて腹黒というのは世間の認識とも一致すると思います。
 ここでは、貸本版だけでなく、そのリメイクである月刊ガロ版と、さらにその改稿版である少年マガジンの特別編も含めて、黒い鬼太郎と解釈します。
 特別編の解釈については異論もあると思いますが、あくまでも私個人の意見ということで、ご理解くださいませ。
 
 


 
 以下、キャラの主観的考察で“黒い鬼太郎”の感想に代える。
 
 
 
※ 墓場鬼太郎
 
 幽霊族の末裔。見た目は小学校低学年の少年で、隻眼を前髪で隠したり隠さなかったり。
 あきらかに作者のウッカリだと思われるが、隻眼が左目だったり右目だったりする。エピソードの中でコロコロ変わるから始末が悪い(苦笑)。
 子供であるにも関わらず煙草や酒をやる(妖怪だからいいのかな?)。
 身勝手、恩知らず、がめつい、バカ、スケベ、カナヅチで泳げない、喧嘩がめっぽう弱い(ねずみ男に腕力で勝てない)、怖がりで弱虫で無能(寝子の変貌や人狼にびっくりして逃げ出す始末。怒った水神には手も足も出なかった)、などなど良いところが一つもない。少年誌以降にある髪の毛針や体内電気などの攻撃能力も皆無。
 自分より弱い相手には強気で執念深いので、特に人間に厳しく当たる。「地獄の片道切符」から「水神様」まででは、育ててくれた恩ある水木のことですら、財布か米櫃くらいにしか思っていない。
 金貸し森協の依頼で借金の取り立てに行った水神や物の怪に対しても、相手が債務者ということで上から目線で当たる。結果、水神の怒りを買い命の危機に陥るあたり、やっぱり頭が悪い。
 盗まれたチャンチャンコの大切さを目玉親父から説教されてさえも、探す道すがら「チャンチャンコのためだ」と電柱に八つ当たりして下駄を割ってしまう。やっぱりバカである。
 目玉親父の教育のせいだろうか、人類に良い印象を持っていない。だけでなく本能的に人類を見下している気配すらある。赤子のとき水木の手を嘗めて「エヘヘヘ」と笑ったその様子が実に打算的で、「生きるためにこの大人を利用してやる」という意思がモロ見えしていた。
 途中、佐藤プロダクションに移籍しての仕切り直しで誕生譚からをやり直し、そこでは隻眼の理由として、気味悪がった水木のせいで石塔に目をぶつけた、とされる。ただし、この設定は佐藤プロ版のみであり、後々のガロでのリメイクでは初期設定に戻り、生まれつきの隻眼となる。
 ついでに、この佐藤プロ版では、鬼太郎父子は水木母子を不幸にしてはおらず、またねずみ男との出会いも一新されており、比較的おだやかにコンビを結成している。
 全身が溶けても復活するほどの、父親譲りのしぶとい生命力。そして幽霊族の特徴なのか精神攻撃に長けており、普通の人間どころか人狼ですら簡単に罠にかけるし、殺すことも容易。つか、実際に殺してるし。
 はっきり言って、こいつのあれこれを手紙に書いて妖怪ポストに投函、ゲゲゲの誰かさんに父親ともども退治してもらうのが世のため人のため、最善策だと思う。
 反面、「霧の中のジョニー」で護衛を依頼してきた池田総理に義理立てしたり、「おかしな奴」では「怪奇事件専門解決」への依頼料を「社会事業なみの値段でいい」と言うなど、人間に親切だったりもする。
 かと思えば、人が地獄に落ちると知っていながら「怪奇オリンピック招待券」を渡す詐欺的商法をやらかすあたり、どうも思考がメチャクチャのようで。
 やっぱり妖怪ポスト案件かな、貸本版の鬼太郎は。
 貸本版の頃は顔の輪郭が四角だった。少年マガジンに移って正義の味方になると髪型とともに丸になる。ガロにおける貸本版リメイクはマガジンと時期が一致しているため輪郭がマガジンやアニメ一期二期と同じで丸く、同一人物にしか見えない。マガジンやアニメから入った人はガロ版を見て何が起きているか理解できずに大混乱しただろうなぁ。
 なお、作者の中では貸本版と少年誌版とで鬼太郎は同一人物らしく、後々に貸本と少年マガジンの間を補完する作品も発表されたそうである。
 
 
※ 目玉親父
 
 基本的に人類を嫌っている模様。鬼太郎同様、逆らった人間を殺すことに躊躇しないどころか、楽しげに笑うほど。
 調査に来た水木に紳士的だったのは、保身のためだけが理由と思われる。水木が訪問した原因である、妻の血で人が幽霊になった事案についても、謝意や同情はおろか遺憾の意すら示していない。ただ「生活費のためにやむなく血を売った」という言い訳をするのみ。
 そもそも、幽霊族が没落した話をする際に、人類のことを「まるでネズミのようにふえて」と水木の前で言うあたり、敵意を隠しきれていない。
 身重の妻が死に、自分も非力な目玉だけになったため、生まれたばかりの鬼太郎を水木宅に誘導、水木家が育てざるを得ない状況に持っていく。その後は、水木母子に見つからないよう、陰から鬼太郎を幽霊族として教育していたらしい。でなければ鬼太郎があそこまで水木母子に冷たくあたるはずがない。
 鬼太郎が成長し、遠慮する必要がなくなった途端、水木に対して上から目線となる。ここまで、水木に対して一度として鬼太郎育てへの礼を言っていない。
 鬼太郎同様、人間であっても可愛い女の子にだけは甘い。寝子が死ぬと、即座に連れ戻しに地獄へと走る。
 一方で、水木が片道切符で地獄に落ちたと知っても放置するだけでなく、心配する水木の母親をも地獄に落とそうと画策する始末。結果、水木母子がいなくなったのをいいことに、水木宅を乗っ取ってしまう。恩知らずの極みだね。
 後日、水木を地獄から連れ戻したのは感謝からではなく、あくまでも成り行きにすぎない。言ってしまえば「借りがあるから仕方ない」という程度のもの。
 人間に対して冷酷で残酷ながら、鬼太郎のこととなると神様に必死に祈る。なので、敵でなくとも人間を殺すことが特に罪悪とはカケラも思っていないのだろう。根本的に人間と道徳観が違う。
 
 
※ ねずみ男
 
 貸本版全体から見た折り返し点あたりまでは怪奇愛好家の面が非常に強い。特に吸血木に関して、その性格と言うか人生観が顕著に出ている。
 手に入れた百万円から躊躇することもなく(値切りはしたが)吸血木の買い戻しに九十万円を支払い、残った十万円も吸血木を育てるための廃墟購入に充てる。
 そもそも吸血木は、ねずみ男が育てていてドタバタの中で紛失したもの。それを生け花の宗家とやらが偶然に入手、店の飾りを依頼されていた喫茶店に自分の芸術作品として(少しも手を加えず、鉢に載せただけで)売るという。宗家から高額で買ったであろう喫茶店支配人は、ねずみ男に、さらに大幅にふっかけて百万円とほざいたに違いなく(作品発表当時、大卒初任給が一万三千円程度だった)。
 これが我々のよく知る「ビビビのねずみ男」なら素直に買い戻すわけがない。偽札や偽宝石で支払うか、言葉巧みに騙して持ち去るか、得意の悪臭で支配人を気絶させるか、強面の妖怪を同伴するか、あるいは深夜に泥棒に入るに決まってる。
 実は、これ以前に、ねずみ男は吸血木を芽吹かせるためにも百万円を使っている。
 合計で二百万円もの大金(繰り返すが、作品発表当時の大卒初任給が一万三千円程度)を使い切った結果、元の文無しになるも一切、気にしていない。引っ越した廃墟で、その夜、たぶん廃墟に放置されていた湿って黴臭いであろう布団にくるまってウトウトしながら、明日からの吸血木育ての段取りを考えつつ「人生は楽しい」と夢見心地に呟く。
 思えば、ドラキュラ四世の下男をしていたのも怪奇な物事に出会えるという期待からであり、尊敬していたとか脅されていたとかの要素は皆無と思われる。その証拠に、四世が死んでも悲しみも喜びもせず淡々としており、その死体を元に吸血木を作ろうと書店で江戸川梅毒著『植物幽霊学』を立ち読みして研究するのだから。
 それより前、ドラキュラ四世に言われて引っ越し先を探しているとき、雑踏の中では「人間くさくていやなかんじ」と心で呟き、人のいない怪しげな所に迷い込むと「なまあたたかい風がふいていいかんじ」と喜ぶ。怪奇大好きなだけでなく人間嫌いだと容易に判る。
 この段階での、ねずみ男は「大金で贅沢を」という発想をまったくと言っていいほど持っていない(吸血木育てより少し前、ニセ鬼太郎と組んで有名人になろうと目論んだときは、脳の一部が欠損していた)。お金があればすべて怪奇趣味に使い切ってしまう。まさに求道者であり世捨て人、悟りを開いた者に匹敵する。
 それだけでなく、「人生は楽しい」という呟きに見られるとおり、求道者ではあっても殉教者でないというのも特徴。奴は好きでやってるだけなのだ。
 対比するに相応しいのが、「下宿屋」冒頭に出てきた理学博士・有馬汎なる人物。彼は人生の大半を夜叉の実在証明にかけて学界から追放され全国を「夜叉の墓」を探して放浪、ついに命と引き替えに人喰いの夜叉を甦らせる(何と傍迷惑な!)。
 ねずみ男なら、こんなことはしない。楽しくないから。
 ねずみ男の文無しで「人生は楽しい」は、まさに一つの到達点。お釈迦様でも、ここまで見事にはいくまいて。
 一方で、貸本版の折り返し点(水神によって都心が水没したあたり)を過ぎると『ゲゲゲ』でお馴染みのお金と権力が大好きゲス野郎になっている。このあたりは鬼太郎とねずみ男とで、ねずみ男が二人いるようなストーリとなる。
 むしろ、ねずみ男のほうが少しだけ良心回路を持っているっぽい。貸本版の最終作となった「ないしょの話」では、ほぼ正義の人♪
 
 
※ 水木(作品掲載初期は「秋山」)
 
 調布市下石原で母親と二人暮らし、血液銀行に勤める平凡な会社員だったのが、鬼太郎一家と関わったため人生を狂わされた被害者第一号。ちなみに第二号は水木の母親、第三号は血液銀行の社長だろうな。
 水木と鬼太郎との関わりは、版によってそれぞれ微妙に違う。
 輸血を受けた患者を幽霊にしてしまった謎の血を調査して幽霊夫妻に行き着き、そこでの話し合いで(半ば脅されて)真相の秘匿に同意。後日、再訪して夫妻の病死を知り、妻の遺体を墓地に埋めるも腹の中の赤子だけ生きて這い出てきた。同情もあって水木は、この赤子を育てることに。一方で、ドロドロで埋めることができなかった父親の遺体からは目玉だけが息を吹き返し、目玉親父となって息子を見守りつつ幽霊族としての教育も施していた。
 ここまでは、すべてに共通する内容。
 兎月書房の「幽霊一家」から「地獄の片道切符」までの連作内では、水木は不吉な赤子を一度は絞め殺そうとするものの、できずに雨降る墓地に置き去りにした。
 発表を三洋社に移しての続編「吸血鬼と猫娘」では、頭のほうに水木の回想として、鬼太郎誕生のおさらいがある。内容的には↑とほぼ同じ。なお、兎月書房版、三洋社版とも、赤子は最初から隻眼だった。
 佐藤プロダクションに移籍しての「おかしな奴」は仕切り直しなのだろうか、またも水木と幽霊夫妻の出会いから始まる。土から這い出てきて足にすがりついた赤子に怯えた水木は思わずそれを振り払う。その勢いで、赤子は墓石の角に顔を打ち付け片目を潰してしまう。水木が赤子を育てる決心をした理由に、幽霊族への哀れみの他に、赤子を傷つけた罪悪感もあった。鬼太郎が隻眼である理由を描いたのは、この佐藤プロ版のみの例外的な演出。しかも、この佐藤プロ版で鬼太郎は、ねずみ男と出会って早々にコンビを組む。どうやら、このタイミングで水木家を出たらしく、水木母子は悪さをされずに済んだと思われる。
 ガロに掲載された後、少年マガジンに転載された「鬼太郎の誕生」では、佐藤プロ版と同じく、水木は片道切符を見つけることも地獄に堕ちることもない。夜な夜な墓場で遊ぶことを諫めたところ、鬼太郎が目玉親父の誘いで家出し、それっきり水木家と鬼太郎は縁切れとなる。佐藤プロ版ともども、水木家にとっては、もっとも幸運な展開。
 ところが、引き続きガロで連載された「鬼太郎夜話」では、その後になぜか水木が鬼太郎を警察に突き出そうと追跡したため、目玉親父が水木を地獄に落とし、兎月書房版と同じ流れへと繋がる。こちらでは水木母のその後は描かれていないが、地獄から帰還した水木が鬼太郎たちと、ねこやの二階に同居しているので、兎月書房版と同様に母親は不幸な末路を迎えたのであろう……。
 その後の水木の消息は貸本版、ガロ版ともに不明。ただし、アニメ版『墓場鬼太郎』では、鬼太郎にあっさり見捨てられ水神に呑まれた描写がある。
 少年マガジン版は最もシンプル。「妖怪大作戦」という鬼太郎特集の画報の中で、↑の経緯を見開き2ページに簡素にまとめて「鬼太郎のおいたち」として紹介。つまりダイジェストのみ。そして、最後は家を追い出された、とだけ。育てたのは「血液銀行の社員」とあるのみで、水木の名前も顔もついに出てこなかった。これが少年マガジン本編における鬼太郎誕生譚のすべて。ちなみに、この「おいたち」でのみ、目玉親父が鬼太郎の養育を社員に頼んだ、となっている。
 ちくま文庫や講談社漫画文庫の『ゲゲゲの鬼太郎』に「鬼太郎の誕生」が収録されていないことを欠点とする意見は、実は筋違いなのである。むしろ、「鬼太郎の誕生」を少年マガジン版の冒頭に据えた講談社コミックスや中公文庫のほうが、編集的にまちがっている。ガロからの改稿転載である「鬼太郎の誕生」は、同じく「牛鬼対吸血鬼」や「ねこ屋のきょうだい」ともども少年マガジンとしては、あくまでもマガジン本編とは違う特別編の意味を持つのだから。
 欲を言うなら「鬼太郎の誕生」はガロ版「鬼太郎夜話」の冒頭に収録してほしいところだが、ちくま文庫、中公文庫とも残念ながら、そうはなっていない。発表どおりの理想的な編集がなされているのは『水木しげる漫画大全集』のみ。
 少年マガジンの特別編「ねこ屋のきょうだい」で、ねこや二階に鬼太郎父子と同居する、水木と瓜二つの血液銀行社員(名無しさん)が登場、クレヨン代の八十円を鬼太郎にやったり寝子のために紹介状を書いたりと、貸本版「吸血鬼と猫娘」の水木の役回りを担当するが、舞台が東京でなく京都なので、まったくの別人、他人のそら似と思われる。
 
 
※ 禿山
 
 水木が勤める血液銀行の社長。
 水木同様、彼にも落ち度はないが、幽霊の血のせいで会社の経営は傾き、その真相を知ろうとしたため、鬼太郎父子によって地獄に流された気の毒な人。
 この当時、輸血用や製薬用の血液確保には今でも知られる献血の他に、預血と売血があった。
 預血は自分が手術で血が必要になるときの備えとして血を「預ける」こと。要するに預血をした人は、していない人より優先的に輸血してもらえる。古い漫画やドラマなどで、手術を控える患者の家族親族友人たちが預血証書を持ち寄って病院に提出するシーンがあるが、あれは自分の輸血権を人に提供するということ。さらには、預血証書の売買もあったらしい。
 売血は読んで字のごとく判りやすい。自分の血を直接お金に換えること。喰い詰め者がこの制度に群がったものの、このタイプの人間はアルコールやタバコやドラッグや食生活や住宅環境や不衛生さや持病や頻繁な売血などなどによる健康問題を抱えていることが多いので、その血が品質的に使いものにならないケースも多く、廃止となった。
 鬼太郎の母が血を売ったせいで罪もない患者が幽霊になったし、ねずみ男の血で若返ったヤクザの親分が騒動を起こすし、売血制度はロクなもんじゃない。
 
 
※ 夜叉
 
 この物語では、千年以上昔に中国から渡来した吸血妖怪という設定。封印されていたが、理学博士・有馬汎の命と引き替えに復活する。
 最初は大阪で、奴隷化した鬼太郎に演奏させた『ガイコツ節』なる歌で人々を誘い込み喰らう狩猟方式をとっていた。が、足がつきそうになると東京に引っ越し。家賃も食事もタダという下宿屋を開いて、下宿人を太らせてから喰うという畜産方式に切り替えた。わりと知性派だよな。
 この夜叉がガロ版では牛鬼に、さらに少年マガジンへの転載では、おどろおどろに名称変更されている。また、ガロ版を収録した単行本の多くで、外見も牛鬼へと変更された。
 
 
※ ドラキュラ四世
 
 ハンガリーにいられなくなり、日本に密入国して身を潜めていた、かのドラキュラ伯爵の四代目。
 最初の登場は、水木宅を乗っ取っていた鬼太郎をステッキで叩き出したうえで、大家に百万円支払って入居、というシーン。
 こういうケースでは報復するはずの鬼太郎が、やられっぱなしで素直に出て行ったのには理由がある。鬼太郎が殴られた際、目玉親父が「とんでもないやつがあらわれた」「命があぶない」と言い、即座に逃走を選択。この時点で目玉親父は相手の正体と実力を見抜いたと思われる。
 その後、吸血の準備にあたって人目の少ない場所を選んで引っ越した先が、夜叉の営む下宿屋という因果。夜叉が太らせていた獲物を巡って、夜叉と相討ちになる皮肉な結末に。
 本当にあのドラキュラ伯爵の子孫なのかどうかは怪しいと思う。だって言動が下品で貴族っぽくないし。
 が、自分を食べた相手の脳を支配するのが常套手段の目玉親父が、四世にだけは鼻の穴や耳の穴から這い出そうとするばかりだったのは、四世の実力が目玉親父を上回っていた証拠なのかもしれない。目玉親父の最初の警戒は正しかった。と同時に、四世と相討ちになった夜叉の実力も推して知るべきであろう。
 元の水木宅に入居する際に百万円の札束を出したかと思えば、家賃食費タダの下宿に何の疑問も抱かず飛びつくあたり、ユニークな金銭感覚を持つ人物でもある♪
 ガロ版を収録した単行本のほとんどでは名前はなく「吸血鬼先生」とだけ。しかもソッコーで牛鬼と相討ちに。
 
 
※ 金野なし太(ガロ版および少年マガジン特別編では金野梨太)
 
 名付け親を恨んでいいレベルの売れない漫画家。
 金欠で困っていたところ、たまたま通り過ぎるドラキュラ四世とねずみ男の会話を耳にして、勝手に後をつけて便乗して下宿人に収まった、わりと図々しい男。
 一ヶ月、漫画も描かず喰っちゃ寝で丸々と太り、夜叉だけでなく四世にも「そろそろ食べ頃」と狙われる。
 両雄相討ちの後、貸本版およびガロ版では不潔の極まりないねずみ男に呆れて都心を目指す。少年マガジン特別編では、魂を取り戻した鬼太郎に諭されて、仕事を求め街に向かう。
 それにしても貸本版には漫画家キャラがよく出てくるな。
 
 
※ 寝子ねこ
 
 ご存じ猫娘の原型。
 東京の谷中初音町に在る「ねこや」の孫娘。
 劇中のあだ名として、そして地獄での住まいの表札に「猫娘」とある。
 ただし、寝子は人間であって妖怪ではない。
 推測となるが、ねこやが代々続いてきた三味線屋であり、数多くの猫を殺してきたため、その祟りで猫憑きになったものと考えられる。
 ねこやは天保時代からとのことなので、昔は猫に対して感謝して供養もしていたのであろう。でなきゃ、とっくに途絶えてるはず。
 が、本編の婆さんの時代には、そんな気持ちがカケラもないため、寝子に祟りが来てしまったんじゃないかな。何せ、皮を取ったあとの猫の頭を店先に晒して「一個十円」の札を立ててるほどなのだから、猫の供養など婆さんが考えているとは思えない。だから孫娘が祟られるんだよ。寝子の母親は早世しているらしいし。
 この婆さん、水木に唐突に一方的に家賃倍増を言い渡すあたり、少し意地悪婆さん入ってるっぽいし(苦笑)。
 婆さんがもう少し真摯だったら、寝子は歌が上手いだけの普通の女の子として人生を送れたかもしれない。とは言え、鬼太郎父子と関わると善人悪人関係なく不幸になる率が高いからなぁ…………。
 ねこやは水神の襲撃により流されてしまった。婆さんの消息は不明だが、いつも居間でお茶飲んでるだろうから、たぶん溶かされたか溺死したと思われる。ならば地獄で寝子と再会してるかもね。
 少年マガジンの特別編「ねこ屋のきょうだい」では歌手にならず、鬼太郎が妖怪病院を紹介して猫憑きを治療してもらった。また、こちらでは、ねこやは京都の三味線屋となっている。
 
 
※ ニセ鬼太郎
 
 記憶欠損時のねずみ男と組んで、墓場鬼太郎に成り代わって立身出世を目論む不良少年。なんで鬼太郎になりすますと出世できるのかは、よく判らないが、本人はそう確信しているらしい。
 鬼太郎そっくりの外見だが、隻眼ではない。自分のことを「ほんとうの鬼太郎」と言い、本名は不明。
 鬼太郎をよく知る寝子が人気歌手になったことを、計画の障壁になると警戒。ねずみ男の指示で罠にかけ観客の面前で猫の本性を暴き、さらに水死させた挙げ句、自分も地獄に流れる。
 地獄の住人となった寝子を迎えに来た目玉親父と寝子本人の温情で地上に生還、ねこやで水木たちと同居することに。
 というあれこれを見てみると、ほぼ行き当たりばったり。本人が自分で思っているほどには頭は良くない。むしろ鬼太郎ほどではないがバカサイドに属する。
 根っからの嘘つきなので、寝子の気遣いに大声で泣いたのも感謝感激したのも、すべて演技かもしれない。当然、反省しただの修養しているだのも信用できない。ゆえにか最期は無様そのもの。
 少年マガジンの特別編「ねこ屋のきょうだい」では、寝子の兄で、鬼太郎のチャンチャンコを盗む直前に寝子に見つかり、諭されて改心し家に戻る。鬼太郎に成り代わろうとした理由は鬼太郎の超能力を身につけて寝子を治そうとしたから、とは本人の談。
 
 
※ トランク永井(ガロ版では三島由美夫)
 
 人気歌手。
 鬼太郎に関わっても不幸にならなかった希少な人材。
 寝子がプロ歌手になるきっかけをくれた人でもある。
 この人を不幸に陥れたのは、ねずみ男。しかも鬼太郎が結果的にとはいえ助けることに。
 
 
※ 水神
 
 金貸しの森協から借金していた妖怪。
 取り立て係となった鬼太郎に酷い目に遭わされたため、仕返しに東京中を大洪水にし大勢の人間を溶かし鬼太郎の命を狙い続けたものの、最後は大金持ちの人狼紳士による科学力組織力で退治される。
 強いと言えば強いが、弱いと言えば弱い。
 
 
※ 物の怪
 
 金貸しの森協から借金していた妖怪その2。
 ねずみ男に協力して育てている吸血木の実を獲ろうとした鬼太郎を棒きれで叩き殺そうとするものの、相手が借金取りと知るや何故か戦意喪失して逃げ回るという、負債者の悲しい性を見せてくれた。
 登場からの数コマでは竹原春泉斎の描いた「小豆洗い」の外見なのだが、話が進む中で変化、最終的に全然違う顔になる。
 これはつまり、原稿執筆中に線の省略が進み、キャラデが簡素化していく過程がそのまま本になったと思われる。
 水木翁は少年マガジンにて、この最終形態を「こま妖怪あまめはぎ」として登場させ、竹原春泉斎の絵は、そのまま「小豆洗い(小豆とぎ)」として妖怪解説本や後々の『鬼太郎』に登場させた。貸本版で一つのキャラだったのが後の作品で分裂した現象ということで興味深い。
 
 
※ ガマ令嬢
 
 大きな口以外は、ベティ・ブープそっくりな女性。
 口がチャックになっているので、ノーマルの人間ではなかろう。
 が、物語での役割は普通の人間そのもの。言葉遣いも丁寧で礼儀正しく、ご近所さんとして申し分ない。
 二人の求婚者がどちらも妖怪だと鬼太郎から知らされ、慌てて引っ越していったっきり物語から退場。
 あるいは、人間社会に憧れて、人間として生きると固く決意した妖怪だったのかもしれない。
 
 
※ 人狼ひとおおかみ
 
 贅沢な暮らしに目覚め俗物化したねずみ男と同じ高級アパートに住む紳士で、『タイガーマスク』のミスターXみたいな服装をしている。
 鬼太郎にガマ令嬢との仲を取り持つよう依頼し、対価として水神を退治するも、肝心のガマ令嬢に逃げられ、同じくガマ令嬢に惚れていたねずみ男と共謀、鬼太郎暗殺に動く。
 結果は鬼太郎の勝ち(貸本版では、ほぼ自爆)。
 獣化したとき、夜道でガマ令嬢の鼻に噛みついた。このことからすると、満月の夜には正気を失うらしい。
 彼のキャラデは、少年マガジン登場の吸血鬼ラ=セーヌに引き継がれる。
 
 
※ 村田
 
 売れない貧乏漫画家。
 家賃滞納のため逆らえず、大家の口入れで殺し屋・金田の手伝いをするはめに。
 それでも最後の最後で逃げ出していれば、あんな結末にはならなかったかもしれない。
 いちおう、鬼太郎父子の被害者の一人と言える。金田夫婦を始末し、残るは村田だというときの鬼太郎父子の笑いは邪悪そのものだった。
 ガロ版では、ねずみ男が、この立ち位置になる。
 
 
※ 金田
 
 殺し屋。
 長く留守にしていた家に妖怪が無断で住み込んだため、村田に手伝わせて追い出そうとするも、鬼太郎の反撃に遭う。
 鬼太郎の「夢じらせ」を警告と理解せず、鬼太郎との闘いをやめなかったため、夫人とともに最悪の結末に。
 本人は悪党だが、この一件に限っては被害者と言える。
 鬼太郎が理由あってにせよ無断で他人の家を使うのだから、非は鬼太郎にある。「夢じらせ」などという漠然とした方法でなく、もっと具体的に交渉すれば、あるいは別の結果になったかもしれない。
 この人、顔が超長いのだが、モデルは誰かな? いかりや長介さんか? ジャイアント馬場さんか?
 ガロ版では、人狼がこの立ち位置を務める(ただし、家は人狼のではない)。
 
 
※ 吸血鬼ジョニー
 
 多くは語らない。少年マガジン版の吸血鬼エリートと、まったく同じだから。
 ただし、エリートの正体が大蝙蝠だったのに対し、ジョニーは特に正体を現さなかった。普通に人型吸血鬼だったのかもしれない。
 彼が狙った池田総理は、実在の人とよく似ている。標的リストに「手塚治虫」の名前もあったな。この吸血リスト、少年マガジンの「吸血鬼エリート」でも署名だけなぜか「霧の中のジョニー」なんだな。
 ジョニーの薬で溶かされた鬼太郎は「恐山の霊水に三年」浸からないと復活できないそうで。
 エリートのときは、恐山病院で「二、三日」だった。
 ちなみに「ないしょの話」冒頭でも鬼太郎は自爆的に溶けたが、その際は恐山で「三ヶ月療治」。
 同じ溶けるでも症状が違うのね(笑)。
 
 
※ 昌一
 
「怪奇事件専門解決 墓場鬼太郎」の看板に唯一、依頼してきた人物。
 礼儀正しく鬼太郎たちに接したためか、鬼太郎父子も、かなり好意的に行動した。
 この一件が、正義の味方・鬼太郎の誕生に繋がったのかもしれない。
 ストーリとしては少年マガジンの「陰摩羅鬼」そのもの。
 
 
※ 水木しげる
 
 調布市に居を構える漫画家。
 喫茶店で出会った、自分の漫画キャラと瓜二つな鬼太郎とねずみ男を自宅に招待、住まわせることに。
 その後、調布市全体がブリガドーン現象に呑み込まれ百鬼夜行の中、自宅をガモツ博士に接収される。一時は妖怪になるしか生きる道はないとまで覚悟した。
 が、ブリガドーン現象の消滅でいつもの日常生活に戻り、鬼太郎たちとは二度と会えなかった。
 目玉親父の説明によると、水木しげるだけでなく多くの創作者による怪奇作品は、実は創作ではなく霊的存在を感知していたに過ぎず、創作者にはそういった能力がある、とのこと。
 
 
※ ガモツ博士
 
 怪奇系の学者。
 自然現象であるブリガドーンを人工的に起こす装置を開発、妖怪の王になることを企む。
 娘のカロリーヌが吸血鬼ではないかという台詞があるので、ガモツもモンスターかもしれない。目玉親父を生きたまま喰ったくらいだし。
 なお、カロリーヌは計画を知っているものの、そこまで悪人ではなく、むしろ心優しい少女と言える。
 少年マガジン「朧車」では元興寺ぐわごぜに役を取られ、ガモツは出番を失う(笑)。カロリーヌは、ただの悪党に。
 
 
※ 水木さがる
 
 怪奇漫画家。
 鬼太郎が持ってきた「あの世保険」と特典の「怪奇オリンピック招待券」に魅せられ契約。地獄に落ちる。
 ところが、借金だらけ仕事まみれの生活より地獄のほうが楽しいと知って、同じく鬼太郎と契約して地獄落ちした病院長とともに、おおいに納得する。
 お化けのダンスを楽しみながら水木が語る人生訓は、深く考えさせられる。
 
 
※ 落葉喜之助
 
 ヤクザの大親分だが、老衰で臨終間近。
 が、ねずみ男の血を輸血され大復活。その血で大儲けできると考え、ねずみ男を求めて、同じく彼を追う病院側とで争奪戦になる。
 捕らえたつもりのねずみ男によって血を抜かれ、ボロボロの死体に。
 妖怪の血を人に輸血した結果の若返りや不死身化および末路は、後に平井和正さんの『ウルフガイ』でも使われる。平井さんが『鬼太郎』を参考にしたかどうかはともかく、水木翁のセンスが時代を先取りしていたのは、まちがいない。
 
 
※ 山田一郎
 
 ゼウグロドン(鯨神)を研究する天才科学者。
 バカが付くほどの善人。
 
 
※ 村岡花夫
 
 ゼウグロドン(鯨神)を研究する天才科学者で名誉欲を強く持つ悪人。
 少年マガジン版「大海獣」の山田秀一に相当する。
 ねずみ男の活躍により、村岡の目論みは失敗することに。
 
 


 
 
 
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