子連れ便利屋


作 妖之佑

 
 
 
 
「ハァーイ♪ ワタシ、“ディヴィド・ヴィクター・ドマニアン”イイマース。“DVD”ト呼ンデクダサーイ」
 これが今回の依頼人との出会いだった。かくいう俺は、まあ便利屋だ。
 便利屋というからには、何でも受ける。多少ヤバめのものでもだ。
 で、この外人野郎の依頼なのだが。
「名残雪を見ながら一杯やりたい!?」
「イエス。コレコソ日本ノ風流デスネー」
「ま…待ってください。ミスター・ドマニアン」
「DVDデ、オッケーヨ。タケシ」
 慣れ慣れしく俺の名を呼び捨てにするDVD。まあそれはいいが。
「じゃあ、DVD。今がいつだかを考えてください。夏ですよ」
「オー。ダカラ風流ネー。ワタシ、日本ノ美、味ワイタイデース」
 な…なんて、わがままな野郎だ。とはいえ、一度引き受けた以上、後には退けない。
「とにかく北海道に行ってみよ、とーちゃん」
 モバイルを見つめていた美香(みか)が言った。俺の娘だ。いや、身に憶えはないのだが……。
「北海道なら降ってるのか?」
「判らん。せやけど、日本でいっちゃん北やからなあ」
 こいつの言うことには一々道理がある。まだガキのくせに、俺よりも知恵が回る。だから連れているわけだが。
 とりあえず千歳行きの飛行機に乗りはしたものの、見込みは芳しくない。
「あかん。天気図見るかぎりやと、絶望的やわ」
「オーノー、ナントカシテクダサーイ!」
 大げさに嘆くDVD。そう言われても、俺は神様じゃあない。
 と、前の方で、なにやら騒ぎが起きていた。
「全員動くな! この機はたった今から、我々“ウンモ教団”の支配下に置く」
 三人組が怒鳴る。うち一人は拳銃を振り回している。
 ハイジャックか。ったく、こんな時によりにもよって…………あ、待てよ。
「おい、美香。もっと北の天気はどうだ?」
「え? ――せやな、雲はあるで。こついらがもちっと下がってくれとったらよかってんけどなー……あ、とーちゃん、どこ行くねん?」
 美香の言葉を最後まで聞かずに、俺は通路をずんずんと前に進んでいった。
「な…なんだ貴様!? 我々に盾突こうというのか!?」
 リーダーらしい男が俺を見て怒鳴る。かまわず俺は、突き進んだ。
「やむをえん。正義のためだ!」
 リーダーの言葉に、あとの二人も俺に襲いかかる。だが、しょせん素人だ。
 俺はあっさりと二人を床に叩きのめし、リーダーの拳銃を奪った。
「チッ、トカレフか。しかも中国製のコピーかよ」
 だが、使えなくもない。
「おい」
 立ちすくんでいるリーダーに銃口を突きつける。
「ゆ…許してくれ。我々はあくまでも正義を貫くために――」
「パイロットに行き先を指示しろ。サハリンだ」
「はあ?」
 あっけに取られるリーダー。
「早くしろ!」
 ノロノロと起き上がる二人にも命令する。
 俺の迫力に三人とも慌てて指示に従う。そりゃそうだ。こいつらとは気合いが違う。こっちは信用がかかってるんだからな!
「ハイジャックをハイジャックて、何考えとんねん」
 美香が近づいてきて言う。
「背に腹は変えられないからな」
 俺はニヤッと笑った。
 
 
「さ、まずは一杯」
「オウ、サンキューデス」
 俺が用意していた吟醸酒を口に含むDVD。
「デリーシャス♪ マタ、コノ雪ガ素晴ラシイデスネー」
 なんとか捕まえた名残雪(なのか?)の景色に、わがままDVD氏もご満悦だ。
「アリガトウ、タケシ。アナタノオカゲデ、日本ノ美ヲ肌デ感ジルコトガデキマシタ」
 すべての苦労が報われる瞬間だ。酒が美味い。
「せやけど、とーちゃん。ここ、サハリンやろ?」
 美香が耳打ちする。
「いいんだよ。江戸時代は“樺太”っていってな、れっきとした日本だったんだから」
「今は、ちゃうやん」
「“北方領土”とか言ってごまかしときゃいいんだよ。判りゃしないって」
 そう。そんなことは、些細なことなのだ。DVDが喜んでいれば、それでいい。
 それよりも問題は――
「どうやって帰るか、だよな〜」
 すでに近づきつつあるロシア軍の一団を遠目に見ながら、俺はグイッと酒をあおった。

 
 
 
 
おでんおでん

 
 例によって例の企画への作品です。お題は「わがまま」「名残雪」「DVD」だったのです。んなもん二行ですむやん。
 妹のわがままを聞いて、DVDを買った。観てみた。イルカの曲はいいなぁ。
 ほら、終わった。(;^^A
 
2001.7.10.
 
スミビト企画

 
暖簾暖簾

 
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庭に出る
 
 
 
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