ましな結末
「どうだった? お客さんは」
保護した旧式宇宙船から戻った相棒に、コックピットの人物が声をかけた。
「ああ。だいぶ興奮しているようだけど、まあ、あれならましなほうさ」
答える相棒は、対照的な巨大ゴキブリである。
「はは。そう言えば、こないだ球状星団の端っこで見つけた爺さんは大暴れしてくれたからなあ」
「年寄りが石頭なのは、いつの時代も同じってことよ」
そう言いながらゴキブリは自分の体のあちこちをいじっている。
ドサッという音とともに、その赤茶色の外殻が床に崩れた。
「あー、暑かったぜ」
ランニング姿の中年男が現われた。
「ダイエットにいいぜ」
茶化す相棒である。
「彼女を保護センターに入れたら、次はどこだ?」
「たしか……バーナード星方面だったっけ」
予定表を開きながら答える。
「おいおい、それじゃ今日中にゃ帰れないぜ。芸能人水泳大会があるのによー」
「なんだ。まだヴィデオ買ってないのかよ」
「けっ。女房のヤツがよ。ガキの服に使っちまったのよ。俺の小遣いカットしてだぜ」
「そりゃお気の毒」
そんな雑談をかわしていた二人だが、ふと真顔になった。
「こんな誤魔化ししててもよ、連中、けっきょくは傷つくんじゃねーかな?」
「かもな。でも」
「でも?」
「迷子のまま放っとくわけにもいかんだろ。俺たちの大先輩・ご先祖様なんだからよ」
「ったく、大した技術もないのに見通しのない宇宙計画なんてすんなってんだ。あいつら、可哀想だぜ」
「だよなー。まさか、通勤船にすら追い越されてるなんて、夢にも思わねーだろーなー」
「想像すりゃ判りそーなもんじゃねーか。二、三百年もありゃ、光より早えぇ航法が開発されるなんてよ」
「で、追い越されちまうワケだ」
「気の毒だよなー」
頭を横に振りながらパネルを操作する。
そんな会話も露知らぬ真帆を乗せた古びた船と、それを牽引した“三葉虫”は、星の中をゆっくりと動きはじめたのであった。
2002年9月25日に、ひじりあやさんに進呈したものを、あらためてここに掲載させていただきました。
2007.8.7.
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